産経新聞社

メタボリックシンドローム

【メタボリックシンドローム撲滅運動】沖縄特集(3−1)

 □長寿県復活を目指して県民挙げて取り組み

 ■寿命短命…若年からの高脂肪食、肥満が影響

 □琉球大学医学部・島袋充生講師

 ■内臓型肥満を減らすのが最重要課題

 ■メタボ診断は効果的な方法

 琉球大学医学部の島袋充生(みちお)講師は、長年、肥満・糖尿病と心臓病の関係を研究してきた。現在は、現場の保健師、栄養士らと沖縄のメタボリックシンドローム撲滅の活動を展開している。

 「必ずしも沖縄だけの問題ではない。沖縄での寿命短縮には、若年者からの肥満が関係する。肥満から糖尿病(境界型の耐糖能異常も含む)、心臓病(心筋梗塞(こうそく)など心血管病)と進む、『欧米型疾病構造』への変化がみられる」と島袋講師は語る。

 島袋講師は、心臓病専門医だったが、米国留学時代に、肥満・糖尿病による心臓病の多さに衝撃をうけた。欧米型の食生活が早くから進んだ沖縄でも、心臓病が増えると考え、10年前に腹囲の測定を含む心臓病のスクリーニングを開始した。

 その結果、肥満が心筋梗塞の最大の原因となることが明らかとなった。糖尿病自体よりも、糖尿病をおこす前のメタボの段階での発症が多いということなのだ。さらに通常、重要とされる「高LDLコレステロール血症」は、男性心筋梗塞患者の半分でしかみられない。一方、血糖値(随時)が140から200mg/dlの、少し高めの人が男女とも85%を占めた。その大半がメタボリックシンドロームとも診断される。

 「肥満と糖尿病は当然関係する。ただし、肥満と関係した糖尿病・耐糖能異常には、糖負荷試験をしてはじめて見つかる初期糖尿病や食後だけ高い『食後高血糖』、あるいは血糖が高くなくても高インスリン血症を示す状態の『インスリン抵抗性』と、さまざまな段階がある。沖縄県ではすでに20年前から、肥満がさまざまな程度に、糖尿病・耐糖能異常に関係していたのです」と島袋講師は説明する。

 心臓の血管(冠状動脈)に狭窄(きょうさく)がなくても一過性に心臓発作をおこす例があり、古くから『冠状動脈攣縮(れんしゅく)性狭心症』と呼ばれた。原因が不明なため、心臓シンドロームX(不明の意味)とも呼ばれたことがある。島袋講師らは、肥満を基盤とする危険因子の重積(現在のメタボリックシンドローム)が、冠状動脈攣縮の原因となることを、沖縄の肥満症例で明らかにし、米国循環器学会雑誌(1995年)にも報告されている。

 肥満が原因で起こる心筋梗塞は、糖尿病が発症する前から起こることが多く、治療のきっかけがつかみにくい。結局、肥満のある人すべてが悪いのではなくて、インスリンの効きが悪い「インスリン抵抗性」を有する肥満が問題となるのだ。

 「インスリン抵抗性」はほとんどの場合、肝臓や筋肉に脂肪がたまった状態で起こる。島袋講師はこれを「脂肪毒性」という言葉で説明する。内臓肥満とインスリン抵抗性とは非常に近い存在だという。内臓脂肪にたまった脂肪は、(遊離)脂肪酸として血液に大量に放出され、肝臓・筋肉で、「インスリン抵抗性」を起こし、膵臓(すいぞう)ではインスリン分泌も障害する。これらが、肥満を原因とする糖尿病発症に深く関係する。脂肪酸は血管機能を直接障害することも知られており、島袋講師は、「血管脂肪毒性」が心筋梗塞の発症に関係する可能性を指摘する。

 沖縄県では男性(40歳以上)の64%が「腹部肥満」とされる。その中でインスリン抵抗性のある、本当に問題のある肥満をどう見つけ出すかが肝心なのだ。「メタボリックシンドロームの診断基準は、健診や外来で、インスリン抵抗性のある肥満を見つける効果的な方法でもある」と島袋講師は話す。

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 島袋講師は、沖縄で心筋梗塞など心血管病を起こしやすい人のパターンとして、(1)喫煙型(2)高コレステロール血症型(3)加齢型(4)メタボリックシンドローム型−の4つを挙げる。パターン別に、個人のライフスタイルに合わせてアプローチすることが予防に有効だろうと指摘する。

 主要先進国、日本全国と沖縄の平均寿命の推移を比較する(右上グラフ参照)と、女性では1975年に、全国平均より6歳上だったのが、徐々に差が縮まり2005年にはかろうじて1位を保っている状態だ。一方、男性は2000年に全国平均と同程度となり、2002年には、全国平均よりも落ち込み、今後さらに下がる見通し。

 死因別では、欧米型では心筋梗塞が一番多く、アジア型は脳卒中となる。急性心筋梗塞による死亡は、日本の全国平均では30年前に比べほぼ半分近くに減ってきたが、沖縄は、増加傾向。脳梗塞・脳出血は、全国ではともに劇的に下がっているが、沖縄では15年前から脳梗塞と心筋梗塞の比率が1対1と欧米型に近い。

 もうひとつの沖縄の疾病構造の特徴は、肺がんと大腸がんが多いこと。「これも欧米型に近く脂肪摂取と大いに関係があるだろう」と島袋講師は指摘する。

 沖縄では全摂取エネルギーに占める脂肪の割合(厚労省・国民健康栄養調査)が、60年前から一貫して全国平均より5〜6%多く、1965年あたりから、厚労省の推奨値25%を大きく上回っている。同時にBMI(体格指数)の推移も、1980年、60歳代男性平均22・0だったのが、2000年には23・5を超えた。腹囲径では現在、男性(40歳以上)85センチ以上が平成18年度で全国平均55・8%に対し、沖縄は67・4%。女性(40歳以上)の腹囲90センチ以上は全国22%▽沖縄35・1%と多い(上グラフ参照)。

 メタボの頻度も、男性(40歳以上)では30%前後あり、特に30歳代、40歳代の割合が全国平均を大きく上回っている。女性は、60歳代でも10%に満たない。

 メタボの診断基準については、「関連学会で十分な議論がなされている。男性と女性では、何を目的にするかで基準値が変わる。例えば糖尿病を防ぐ目的ならば女性90センチでなく、80あるいは75がいいかもしれない。一方、心筋梗塞を効率よく予防するには、90センチで十分かもしれない。メタボの診断基準には、それぞれに妥当性があると思うのです」と語った。

 今回の特定健診・保健指導については、「メタボの概念に合わせて、各人の総合的な心臓血管リスクを評価する必要がある。それぞれの病態に合わせて介入するうえで、内臓肥満症の有無を考慮にいれるのは、合理的なアプローチ」と評価する。実際、島袋講師自身、一次健診・二次健診、あるいは心臓病発症リスクのある症例に対し、地域の保健師や管理栄養士らと協働で、効果的なアプローチの方法を模索している。

(2008/10/23)