■巧みな保健指導で成果
■日本肥満学会シンポ「メタボリックシンドローム克服へのアプローチ」
第29回日本肥満学会が10月中旬、大分市で開かれ、「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)克服へのアプローチ」のテーマでシンポジウムが行われた。日本のメタボ診断基準に関連して疫学調査からの検証や、食事・運動療法、保健指導などについて話し合った。(坂口至徳、大串英明)
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□札幌医科大学 齋藤重幸講師
■メタボ、2型糖尿病の予測因子
札幌医科大学の齋藤重幸講師は「メタボリックシンドロームの疫学と現状」のテーマで講演。北海道で30年にわたり続けている疫学調査のデータをもとに、日本のメタボの診断基準を検証し、動脈硬化だけでなく、糖尿病や高血圧の強い予測因子でもあることを明らかにした。
齋藤講師、島本和明教授らは、北海道・端野(たんの)、壮瞥(そうべつ)の2町で計約2000人を対象に昭和53年から30年間継続して、住民健診を行い、高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満などについて病気との関連を調べる疫学調査を続けている。
日本内科学会など8学会が平成17年にまとめたメタボの診断基準では、内臓脂肪蓄積型の肥満を基盤として、高脂質、高血圧、高血糖など複数のリスクが基準値を超えると動脈硬化から生活習慣病につながる、としている。この基準をもとに、齋藤講師らが行った住民健診の中のメタボになっている人の頻度を調べたところ、通院中の人を含めた全集団では、男性26%、女性8・8%、治療していない人の集団では、男性18%、女性5・5%だった。
厚生労働省が、平成16年と17年の国民栄養調査をもとに行った頻度では40〜74歳で男性の25・5%、女性の10・3%がメタボと判定されることから、齋藤講師らが調べている集団は、全日本人と同様の頻度を示していることが示された。
そこで、治療していない集団について、血管の弾力性の低下を調べて動脈硬化の程度がわかる「PWV(脈波伝播(でんぱ)速度)検査」のデータを指標にして解析したところ、メタボの人は明らかに動脈硬化が進んでいた。
また、脂肪組織から分泌され、動脈硬化を修復する作用がある善玉ホルモン「アディポネクチン」についてもメタボの人は分泌量が少なかった。これで診断基準によりメタボと判定された人は動脈硬化のリスクが高まっていることが実証された。
さらに、心臓の病気の発症にどの程度影響しているか調べるため、治療していない男性約800人を8年間、追跡調査した。この結果、日本の診断基準でメタボに当てはまる人は、心血管病などの累積発症率が、メタボでない人に比べて明らかに高く、負のリスクは1・9倍近くになった。
一方、メタボが、肥満などが原因の2型糖尿病の発症予測因子であることもわかった。メタボでない状況が10年間続いている人に対し、メタボが改善されていない人の糖尿病発症のリスクは6倍、途中でメタボになった人のリスクは4倍もあり、逆にメタボが解消された人のリスクは、ずっとメタボでない人と同等にもどっていた。
血圧との関係では、男女ともに腹囲径が大きくなればなるほど並行して高血圧の発症率が高まっていく。腹囲が基準を超えて高い人が発症率がもっとも高く、次いで途中で腹部肥満になった人だった。
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□あいち健康の森健康科学センター副センター長 津下一代さん
■「4%の減量」で糖・脂質代謝が改善
比較的軽度な肥満者を対象に愛知県下の6市町村、企業6健保の特定保健指導を開始しておよそ3カ月。「食事・運動療法の考え方」と題する講演で、あいち健康の森健康科学センター副センター長の津下一代さんは、指導結果から、4%程度の減量により、内臓脂肪の善玉ホルモンのアディポネクチンの分泌が増え、糖・脂質代謝が改善されることなどを報告した。
特定保健指導の対象となった人の平均年齢は、企業が48歳、市町村が58歳でそれぞれ男性の割合が90%、60%を占め、腹囲の平均値は90センチ前後。積極支援では男性が84%だった。「本人の意欲を高めるには、改善できることを発見してもらい、行動変容をサポートしていくことが大切」と津下さん。減量すれば数値が改善されるというメタボリックシンドロームの概念は非常にわかりやすいので、自分なりに、無理をしない程度の短期的な減量目標を立てることができる。男性約100人を対象に体重と腹囲減少、それにアディポネクチンの変化をみたところ、「4%減量」を境に明らかにアディポネクチンが改善していることがわかった。
例えば、体重75キロの人なら、75×0・04で、およそ3キロの減量数値となる。3カ月ぐらいかけてやせるのが妥当でもあり、日本肥満学会の標語である「サンサン(3カ月で3キロ減量)運動」とピッタリと符合する。実際に積極支援した39歳の男性には、最初に体重計を購入してもらい、1カ月で1キロ減、1日当たり250キロカロリー減の節食計画を立て、間食・夜食を減らした。運動は初め歩数計をつけるだけだったが、次第に1日1万2000歩の運動を実践するようになった。
「有酸素運動7、筋肉トレーニング2、そしてストレッチ1ぐらいの割合が一番効果的」と津下さん。食生活は、あまり細かいことでなく、おかずの取りすぎや飲酒量などに気を配ることがポイント。この男性の場合、減量と安定を繰り返しながら徐々に体重が減少し、3カ月後の検査では、例えば、中性脂肪が679から88mg/dlに、ヘモグロビンA1cが7・9から6・3%になり、その後もリバウンドなく安定している。血圧や脂肪肝も大幅に改善された。
継続支援の結果として、市町村の国保で、比較的女性の多い「教室型」と50代男性の多い「運動施設型」のメタボ減少率の改善比較を行ったところ、前者は60%、後者は39%となった。運動施設型は、運動意欲があるにしても食習慣は変わらなかったため、食生活の指導を一度加えたところ、翌年度の保健指導では、メタボ減少率を15ポイント上げることができた。
「実行できなかったことを注意するのでなく、その人が意欲的に続けられるよう励ましていくことが大事」と津下さんは語る。
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□尼崎市環境市民局国保年金課 野口緑さん
■リスクを表にして自覚促す
尼崎市環境市民局国保年金課の保健師・野口緑さんは、「保健指導の可能性」について発表。平成19年度の受診者約1万人(40〜74歳)のうち22%がメタボの該当から外れるなどの実績の秘訣(ひけつ)を披露した。
野口さんは、職員厚生課にいた当時、職員の現職死亡が年平均12人もあったことから、心筋梗塞(こうそく)などの心血管疾患の予防対策として内臓脂肪の蓄積やそれに伴うリスクのある職員を中心に生活習慣の改善指導を行った。この結果、5年間で虚血性心疾患による現職死亡ゼロを達成し、休職者やメタボの該当者を大幅に減らして成果を挙げた。今回は、国民健康保険加入者を対象に「ヘルスアップ尼崎戦略事業」として保健指導を中心に取り組んだ。
「より早く、肥満が始まった段階でメタボに該当する人を見つけ出し、病気に陥るような状況を予防し、行動変容を促していく。自覚症状がない段階からなので、保健指導の仕方がカギを握ることは間違いない」と野口さんは語る。
まず、「今自分の血圧が上がっている背景には、何があるかなどと、自分の身体状況を理解していただく。そして内臓脂肪蓄積につながっていく生活習慣とはなにか、そうした一連の気付きをサポートしていくことがもっとも重要」と野口さん。
そのツールとして、個人の健診結果を10年単位の長期間で追った「経年表」と、もうひとつが血圧、尿酸、血糖、中性脂肪などメタボのリスクを表す数値を盛り込んだ「結果表」だ。前者は、自分の身体がどのように変化してきたか、その原因を自身で生活を振り返り、探り当てることができる。後者は、動脈硬化の進展具合など血管の状態を理解する手助けとなる。具体的に、何が内臓脂肪の蓄積につながったか、例えばアイスクリーム1個の糖分がいかに血糖に反映するか、身体のメカニズムを学習しつつ、気付いていないことも意識化して支援していく。
今回の健診では、男性の「正常高値血圧」以上の367人に対して行い、6カ月後を経た結果では、中等症高血圧から軽症高血圧が38%、重症高血圧から正常に戻ったケースが3%、中等症高血圧へは32%だった。総計では15%が正常血圧となり、改善者は、全体の43%に上っている。特に長期の血糖値が反映するヘモグロビンA1c8〜9%以上であった人についても大幅な改善がみられた。
なかでも重症高血圧から正常に復帰した68歳男性は、半年後には、腹囲が7センチ、体重が11キロも減っていた。
平成18年度19%だった受診率が今年は32%と上昇し、初めての受診者は、53%に及んだ。
一方、内臓脂肪蓄積がなくても高リスクの人が多くいた。野口さんは、「保健指導の対象としては、こうした人もきちっと見極めて見逃さないことも重要です。健診の受診率を上げていけば、さまざまなケースが掘り起こされてくる。医療と保健との連携を進めていくことが、メタボ対策の成功のカギを握ると思うのです」と語っている。
(2008/11/12)