メタボのリスクも密接に関係している。最も危険なのは、SASと肥満、高血圧、あるいは糖尿病などが互いに関連しあって症状をどんどん悪化させている状態だ。SASの患者は高血圧を伴っていることが多い。「CPAPによる治療前後の平均血圧を調べたところ、治療前に130mmHgを超えていても、治療後には夜間血圧のみならず、昼間の血圧もよくなる」(鈴木氏)ことも注目されている。
犬を使ったカナダの有名な実験で、SAS状態にした犬とそうでない犬を使い、SASではない犬は夜間睡眠中に耳元のベルで頻回にたたき起こす。そうすると両犬とも夜間の血圧が上がってくる。しかし、昼間の血圧はSAS状態にした犬しか上がってこなかった。このことから、単に夜間の頻回の覚醒で昼間の血圧が上がるのではなく、SAS自体が昼間の血圧に影響を及ぼしていることがわかった。
一方、肥満に関して鈴木氏は、「SAS患者の7割ぐらいに肥満がある」と指摘している。減量できれば、SASがよくなる可能性がある。
SASの結末として待ち受けているのは、心筋梗塞や脳卒中、さらに心臓の不整脈が加わる。特に心房細動といわれる「不整脈」は、SASでは、かなりの頻度で起きてくる。心房細動では、心臓内部に血の塊、血栓が発生し、それがはがれ飛んで脳血管に詰まり脳梗塞になる危険性がある。
1時間当たり、呼吸が止まったり弱くなったりする回数(AHI)でSASの重症度を判定する方法では、30回以上が重症、15〜30回が中等症、5〜15回が軽症とされる。AHIが40回以上となると、夜中の突然死が健常な人の2・6倍になるという報告もある。「いびきと肥満があり、昼間眠気のあるような人たちは、普通の人よりも8倍、脳梗塞にかかりやすい」(鈴木氏)ことが約20年前に報告されている。
米国の調査では、AHIが11以上のグループとSASでないグループを比較したところ、前者は心不全が2・38倍、脳血管障害が1・58倍、冠動脈疾患が1・27倍という結果となった。最近の報告ではAHIが20以上のグループでは正常者の約4倍脳卒中になりやすいことも報告されている。
治療については、一般に使われているCPAP療法は、「実行している人の20%の患者さんが継続できていないという問題がある」と鈴木氏。睡眠中に無意識で外してしまうらしい。工夫してもだめという場合には、口腔(こうこう)内装置(マウスピース)を使う方法もある。気道が広がり効果がある。海外では、「口蓋(こうがい)インプラント」といって、軟口蓋のところにポリエステルの棒を入れる手術がある。いびきがとまり、軽症のSASが良くなるとして、欧米ではすでに認可されている。
◇
□東京農工大副学長・小野隆彦氏
■日本人向け治療装置必要
東京農工大学副学長の小野隆彦氏は、自身のSAS患者経験から、社会的インパクトについて語った。
交通事故に関して米国の研究によれば、閉塞型のSAS患者は、健常者の7倍の確率で事故を起こす可能性があり、CPAPで治療すると、事故件数は4分の1以下に改善されるとしている。SASを含む睡眠障害による経済的損失について、日本大学医学部の内山真教授は、年間3兆5000億円と試算している。
小野氏は、SASの経験から、とにかく自覚症状がないので、自分ではなかなか眠気の深刻さを把握できないことを挙げる。重症でもCPAPを装着して寝れば無呼吸は発生せず、それによって高血圧や糖尿病も軽減される可能性もあり、完治したあとは、夜間頻尿もなくなったことを明らかにした。患者としてさまざまな試みをしている間、10キロほどやせた結果、SASでなくなったとも感じているという。
課題としては、CPAPなどほとんどのSAS治療装置が外国製で日本人向きの開発が不可欠とした。一方、専門医の数が少ないからといって、SAS患者を放っておくのは社会的損失。SASが既往症だと、生命保険会社からも保険加入を断られる例があり、CPAP治療などで無呼吸が起こらないことを社会的にも周知徹底させる必要があると指摘した。
◇
□東京天使病院睡眠呼吸センター長 高崎雄司氏
■女性の割合も増加
総合司会の東京天使病院・駒ケ嶺医院睡眠呼吸センター長の高崎雄司氏は、パネルディスカッションで女性のSASに触れ、一般的に閉経の直後くらいから悪くなってくる。原因として太り始めることと、ホルモンの関係からSASが増えてくるのではないか、と指摘。SAS患者の割合は最初、男性10に女性1と考えられていたが、米国の報告にもあるように、男性2に対し女性1の数値に近づいてきているのではないかと示唆している。
(NPO法人SASネット http://www.cococica.com/sas−net/)
(2008/12/03)