産経新聞社

メタボリックシンドローム

【健康らいふ】メタボリックシンドローム 歯周病治療に画期的に試み(2−1)

 □大阪大学大学院 歯学研究科教授 村上伸也氏に聞く

 ■失われた歯周組織を「再生」 幹細胞を刺激し活性化

 口の生活習慣病ともいわれ、成人の8割以上が罹患(りかん)し、歯を失う一番の原因とされる「歯周病」だが、わが国で、失われた歯を入れ歯などにするのではなく、歯周組織を元通りにする「歯の再生医療」の研究開発が進んでいる。歯根の靱帯(じんたい)組織の「歯根膜」に存在している幹細胞を活性化してサイトカイン(生理活性物質)などの働きで歯を支える骨を再生してしまうらしい。歯科医療の世界でも、画期的な試み。研究に携わる大阪大学大学院歯学研究科歯周病分子病態学教授の村上伸也氏に聞いた。(大串英明) 

 −−歯周病治療というと

 歯周病は、口の中の衛生状態が悪くて、歯と歯茎の境目にプラークと呼ばれるバクテリアが巣くって歯茎に炎症が起こり、それを長期間放置すると歯茎と骨がだめになって、ついには歯を失う病気です。最近では、糖尿病など多くの全身疾患の進行にもかかわっている可能性も指摘されています。

 当然のことながらプラークを除去することが歯周病の予防・治療の基本となります。しかし、従来の治療法で歯茎の炎症はすっきりなくなりますが、失われた歯の骨や歯茎は残念ながら戻ってはきません。そこで、サイトカインなどの力を借りて、歯を支える骨や歯茎を元通りにしようというのが、「歯周組織の再生医療」なのです。

 −−どの辺を糸口に

 歯周組織には、歯根の表面のセメント質▽あごの骨とくっついた歯槽骨▽セメント質と歯槽骨の間の歯根膜▽上部の歯肉の4つがあり歯を支えていますが、中でも歯根膜が重要で、この部分に歯周組織の「幹細胞」に当たる細胞が眠っていることがわかってきました。この細胞を、コラーゲン線維(せんい)を作る「線維芽細胞」や、骨を作る「骨芽細胞」、セメント質を作る「セメント芽細胞」などの細胞にうまく成長させて、歯周組織の再生を果たそうという発想なのです。実際、歯を抜いたときに歯根の表面にくっついてくる歯根膜細胞を丁寧に回収し、骨を作るのにふさわしい環境を与えて試験管の中で培養すると、およそ3週間で骨やセメント質に当たる「石灰化物」ができます。

 大人になっても、歯根膜の中にはそのような幹細胞が眠っているわけだから、その細胞の能力を引き出す工夫ができれば、歯周組織の再生も可能だと期待できるわけです。つまりこのような「歯周組織の幹細胞」をうまく刺激して活性化し、歯周病で失われた歯周組織そのものを復活させる治療法が歯周組織の再生療法ということになります。

 −−すでに臨床応用されている治療法もある

 「GTR法」とよばれる治療法があります。歯周病の手術をすると骨やセメント質が再生してほしい部分をすぐに歯茎の細胞がふさいでしまいます。そこで歯茎と歯槽骨の間に「人工の膜」を置き歯茎の細胞の動きを遮断して、再生を期待するスペースをしばらくの間確保しておく。そのうち歯根膜の側から骨やセメント質を作る細胞が上がってきて、歯周組織を新生してくれるのを待つという治療法です。今では保険適用されています。これ以外にセメント質形成を促すタンパク(エナメルマトリクスタンパク)を用いる方法も臨床応用されています。

 −−大学での研究とは

 私どもは、サイトカインを使った「再生医療」に注目しています。サイトカインとは細胞が分泌するタンパク質の一種で、いろいろな伝令を周囲の細胞に伝えます。その中でも、細胞増殖や骨の形成を促す作用のあるサイトカインに着目したわけです。サイトカイン療法の一例として、2005年には、血小板由来増殖因子(PDGF)に骨補填(ほてん)剤(β−TCP)をプラスしたものが販売され、トピックとなりました。われわれの着目したサイトカインは「線維芽細胞増殖因子(FGF)」です。中でも塩基性の「FGF−2」というもので、FGF−2は新しく血管を作るのを促進する働きも強いことが知られています。歯周組織の再生には、柔らかい部分(歯茎や歯根膜)と硬い部分(セメント質や歯槽骨)双方がバランスよく成長する必要がありますが、このFGF−2は、線維芽細胞のみならず骨芽細胞や軟骨細胞といった硬い組織をつくる細胞にも同時にうまく働きかけることがわかってきたのです。

(2008/12/25)