□住友病院院長 松澤佑次氏
■女性の「やせ傾向」も問題
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)や予防医学について、国民の認識が極めて高い状況になったことは、この撲滅委員会の一つの成果であろうと思います。今後は異なる分野に対しても、情報を発信していきたい。
特に成人男性の肥満、運動不足をベースにしたメタボが目立っている中で、まだ、置き去られた問題が存在する。例えば若い女性のやせ過ぎの問題で、女性は50代まではやせ傾向が極めて強い。その中で起こる健康障害という問題についても、正しい知識を発信する必要がある。
女性のやせ過ぎは、本人だけではなく、妊娠中の胎児への影響も大きいことが明らかになっている。昔は小さく産んで大きく育てるという発想がもてはやされたが、最近では低体重児が後に肥満の遺伝子を獲得してメタボ予備群の子供になってしまうという問題も学問的に検討されている。
さらに、小児の問題は、単に個人の責任ではなくて、環境や社会的背景が極めて強く影響している。教育や受験の問題、遊びや運動ができない状況、食育の問題など、環境整備が必要な部分は極めて大きい。
また、個人がセルフコントロールし、腹囲を指標にそれを減らすことで生活改善することの必要性については十分に理解してもらっているが、実行が難しいのはなぜかという点について、社会的な要因も含めて検討していきたい。
大きな問題である運動に関しては、自転車道の整備など運動ができる環境づくりを行政、自治体、企業などと協力して行っていくことも日本ならではの実現可能性があるプランだろう。一例を挙げれば、大阪で唯一川に囲まれたビジネス街、中之島をニューヨークのセントラルパークのように、ジョギングの道路を周囲に整備するといったことがこれからの都会でのメタボ対策であり、そのような提言ができればいいと思っている。
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□神戸市立医療センター 中央市民病院院長 北徹氏
■動脈硬化性疾患 「診療」から「予防」へ
北徹氏は日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007」について講演した。動脈硬化に関するガイドラインは、1987年に開かれた日本動脈硬化学会冬季大会のカンファレンスで、主要な原因である「高コレステロール血症」の診断基準を提案した。その後、1997年に「高脂血症診療ガイドライン」を設定した。さらに、「NIPPON DATA」(主任研究員、上島弘嗣・滋賀医科大教授)など日本独自のコホート(集団)研究のデータにより、危険因子は必ずしも高脂血症に限らないというエビデンス(科学的証拠)が示されたことから、2002年には「動脈硬化性疾患診療」と名称を広げてガイドラインをつくった。
ガイドライン2007は、内容を一新するとともに名称を『診療』から『予防』へと視点を広げた。「その特徴は、脂質に関しては、これまで指標としてきた総コレステロール値は、危険因子という意味から、全体像を正確にあらわしていない。このため、総コレステロール値のうち、LDL(悪玉)コレステロール(基準値140mg/dl)を前面に出した」と北氏。「高脂血症」という病名も脂質代謝の異常により悪玉が多く含まれる状態という意味で「脂質異常症」という言葉に統一した。
また、新たに症状を「予防」の観点で分類し、心筋梗塞(こうそく)など虚血性心疾患にかかっていない人を一次予防、かかった経験のある人を二次予防として明確に分けた。
「リスクは高くなくても長期にわたると、よくない結果をもたらすという意味で、生活習慣に気をつけておく必要があることを強くメッセージとして出した」という。メタボリックシンドロームの章を新たに設けており、「学会としても動脈硬化による病気の発症との関連にメスを入れていきたい。さらに子供のメタボや家族性の脂質異常の病気についてもどの段階で介入できるか検討していきたい」と強調した。
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□札幌医科大学教授 島本和明氏
■メタボのリスクを高血圧治療に導入
島本氏は、日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2009」について、メタボリックシンドロームに関連して検討された部分を紹介した。
新しいガイドラインの作成にあたっては、2つの点を重視した。ひとつは、「CASE−J」「JIKEI HEART スタディ」など日本で行われた大規模臨床試験のデータをもとに初めてつくられる日本独自のガイドラインであること。もう一つは、ガイドラインが特定企業の利益にならないなど「利益相反」にも十分に配慮して、作成委員のディスカッションをすべてオープンにするなど透明性の高いガイドラインづくりを進めたこと。
今回のガイドラインでは、注目されていた65歳以上の高齢者高血圧の降圧目標を140/90mm/Hg未満とした。島本氏は「日本独自の大規模臨床試験のデータに基づいて決めたもので、75歳以上の後期高齢者の場合には、暫定的に150/90mm/Hgを中間降圧目標として慎重に降圧することとした」と説明した。
メタボについては、「高血圧学会のガイドライン2004が設定された後に日本のメタボの診断基準(2005年)がまとめられたので、今回のガイドラインでは、診断基準を紹介することからスタートした」と島本氏。
高血圧の程度と脂質異常などリスクの数により「リスクなし」から「高リスク」まで4段階に分け、それぞれの高血圧の管理計画と連携する「リスクの層別化」を行ったが、そのさいにメタボをリスクとして取り入れた。たとえば、正常高値血圧であっても、腹部肥満に加えて糖尿病以外の高血糖か脂質異常症が1〜2個あれば「中等リスク」、糖尿病があれば「高リスク」となる。降圧目標は、糖尿病があれば、130/80mm/Hg未満、糖尿病がなければ130/85mm/Hg未満に設定した。
また、特定健診・保健指導については、健診の結果を医師が判断して、症状の程度により、情報提供、保健指導、病院などへの受診勧奨となる。そこで、同学会では、II度高血圧(160/100mmHg以上)より高ければ、直ちに受診勧奨とした。議論になったのはI度高血圧(140〜159/90〜99mm/Hg)でありながらリスク因子がない低リスクの人。ガイドラインで3カ月、生活習慣を改善して様子を見ることになっているので情報提供にとどめた。
「ただ、情報提供のさいに高血圧で、生活習慣の改善が必要であることなどを伝えることを条件にした」と島本氏は説明している。
(2009/01/17)