□横浜市立大学内分泌・糖尿病内科学、寺内康夫教授に聞いた
■食後高血糖は“隠れ糖尿病”
生活習慣病の中でも糖尿病が、一段と心血管病のリスクを高めることは知られている。しかし、その実態に比べて糖尿病を根本的に治す治療法は世界的にもいまだ確立していない状況だ。わが国では、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の概念を取りいれた「特定健診・特定保健指導」が昨年から始まり、徐々に成果が出始めている。一方、糖尿病領域でも最近、「食後の高血糖」が注目され、より早期からの生活習慣の改善や治療介入が、合併症の予防に重要であることが報告されるようになった。糖尿病の発症予防や治療の現状など、横浜市立大学内分泌・糖尿病内科学の寺内康夫教授に聞いた。(大串英明)
□ ■ □
◆メタボとも関連、予防が課題 すでに動脈硬化の進展も
−−国連でも「糖尿病の脅威」が認識され、世界糖尿病デーが満場一致で可決されるなど、その激増ぶりが問題にされていますね
わが国の死亡原因の多くを占める脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞(こうそく)などの心血管病と糖尿病は大きくかかわっています。糖尿病患者は、一般の健常な人と比べ、平均寿命が男女とも10〜13歳短くなっているという報告もあります。
糖尿病は、全身の血管の病気といえます。糖尿病が発症する前から動脈硬化が始まっているので突然脳梗塞になったり、血管が傷ついて腎症や網膜症、神経障害などの細小血管合併症も引き起こします。しかし、自覚症状がないことが多いので、一度診療に訪れても、治療を中断し放置するケースも少なくありません。そのうち合併症が悪化して、壊疽(えそ)で足を切断したり眼底出血で失明に至るケースもあるのです。糖尿病は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)とも密接な関係があり、高血圧や脂質異常症とともに心血管病の危険因子であり、中でも糖尿病の予防・抑制が重要な課題です。
−−“隠れ糖尿病”などという言い方も
血糖の異常を見つける従来からの指標として「空腹時血糖値」、あるいは1、2カ月前の平均血糖値と相関する「ヘモグロビンA1c」があります。血糖は食後にダイナミックに変動しますので、これらの検査だけでは診断が難しく、空腹時血糖値はそれほどでもないのに食後の血糖値だけが高い患者さんを、“隠れ糖尿病”といいます。最近の研究では、空腹時血糖値が上昇する前から食後の血糖値が上昇しており、しかも、その段階から血管内皮の損傷や動脈硬化に伴う合併症が進んでいることが明らかになってきました。そうしたことから、食後高血糖が世界的にも注目され、糖尿病合併症の予防対策として論議されるようになったのです。
−−食後高血糖の問題点は
医療従事者の間でも食後血糖値の重要性についてあまり理解されていないことがあります。いつも通り食べて1、2時間後、医療機関で血糖値をチェックできれば「思った以上に血糖が高い」と分かるのです。家庭で測る家庭血圧計と違い、血糖自己測定は保険の制約があり、また血液を自分で採血する必要もあり、普及には障害があります。食後血糖値をよく反映する「1, 5−アンヒドログルシトール(1, 5−AG)」(※)などの指標もあるので、血液検査で異常を把握する方法もあります。しかし、特定健診などでも検査項目に入っておらず、普及しているとはいい難い状況です。
一方、患者さんも血糖値は知っていても、ヘモグロビンA1cを知らない人も多く、検査自体に対する認識の向上も大事で、それらのチェックを欠かさないことが糖尿病の早期発見につながると思います。また、糖尿病治療には、「かかりつけ医」の役割が大きく、大学病院などの基幹病院を地域医療の中核に、病院医・開業医間の連携も重要であり、積極的に取り組んでいます。
−−糖尿病の病態について
糖尿病には、インスリンを出す膵臓(すいぞう)のβ細胞が破壊されてインスリンが出ない「1型糖尿病」と、β細胞のインスリン分泌低下に加え、インスリンの作用が障害されるインスリン抵抗性という病態を併せ持つ「2型糖尿病」があります。患者さんの大半は2型糖尿病です。日本人は欧米人と比べ体質的にインスリン分泌能が低く、軽度の肥満であってもインスリン抵抗性が引き起こされると、メタボ予防でよくいわれるように、食生活のわずかな変化でも糖尿病になりやすいのです。実際、日本人の栄養摂取量の変化を見ると動物性脂肪の摂取量の増加が顕著です。個々の体質に生活環境を加味して糖尿病の病態を考えていく必要があります。
−−治療も病態を考えて
患者さんの病態にも個人差や発症の時間差があることは確かで、インスリンの分泌低下と抵抗性のどちらがより重要とはいい難い場合があります。多くの2型糖尿病では、インスリンの分泌低下と抵抗性の両者がかかわっており、その両方を改善することが大事です。
(2009/03/19)