産経新聞社

メタボリックシンドローム

【メタボリックシンドローム撲滅運動】撲滅委員会(2−1)

 ■メタボ対策、世界が注視 リスクを改善「健康立国」目指す

 今年度の第1回メタボリックシンドローム撲滅委員会が、4月7日、東京で開かれた。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準や学会の研究をめぐる国内外の動向、実施後1年を迎えた特定健診・保健指導の成果などについて話し合った。参加者は委員長の松澤佑次・住友病院院長▽北徹・神戸市立医療センター中央市民病院院長▽門脇孝・東京大学大学院教授▽島本和明・札幌医科大学教授▽渡邊昌・生命科学振興会理事長▽関英一・厚生労働省健康局生活習慣病対策室長。(坂口至徳、大串英明)

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 □住友病院院長 松澤裕次氏

 ■特定健診・保健指導を学会も支援

 ≪日本は健康対策成功し得る環境≫

 メタボリックシンドローム撲滅委員会は、平成18年、疾患概念の普及と国民への啓発を目的として生まれました。そこに厚生労働省がメタボを包括した予防医学の制度をつくる目的で加わり、医学会、国、マスメディアが一体になった活動となりました。

 その成果として、メタボの考え方が日本全国に浸透したという意義は大変大きく、加えて国の予防医学の政策になったという意味でも、今までにない展開になりました。

 厚労省の特定健診・保健指導については、ウエストを減らすなど目標が非常に分かりやすい。達成できれば、結果は悪くなり得ないと、確信しています。今後、どのぐらいの実践・実施ができるかが非常に大きな課題であろうと思います。

 例えば、運動をする環境がないことについて、何らかの形で整備することを提言すれば、この委員会の意味があるのではないかと思っています。

 また、ことし、国際肥満学会のアジア・オセアニアの学会がインドで開かれました。インドでは、一部の富裕層においてのみ飽食と運動不足により肥満者が増えていますが、生活習慣の改善によって肥満対策をするという考えは非常に弱い。逆に、米国の肥満者はほとんどが低所得者層で、富裕層はダイエットをしてやせている。世界を見ると、このように非常に両極端の社会現象であり、肥満対策は極めて一部の人に偏っている。

 それに比べて、日本では全国民が健康について関心が非常に高く、格差もインドや米国ほどではなく、国民的な健康対策が成功し得る環境にあります。

 学会レベルでは、特定健診・保健指導についての科学的なエビデンスを出していくことが使命と思っています。今後、日本が健康立国を世界に誇りとする国としていければ、撲滅委員会を行っていた意義があると思います。

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 □厚生労働省健康局 生活習慣病対策室長 関英一氏

 ■国民一人ひとりの取り組みが成果へ

 特定健診・特定保健指導についは、基本的なコンセプトに誤りはないということが、1年間を総括した認識です。実施面での課題は、確かにいくつかあり、これらを丁寧に克服していく必要がありますが、それとともに、事業効果をさらにあげられるよう進化させていくという姿勢も重要だと思います。その際、特定健診・特定保健指導にだけ視点を絞るのではなく、リスクのない人も含めた周囲の理解があって初めてリスクのある人が日常生活の中で取り組んでいけることになります。

 また、医療機関にかかっている人については、特定健診・特定保健指導の直接の対象とならない場合が多いですが、実際、島本和明教授の講演にもあったように、治療を受けている人の中でも、服薬が指示どおりに徹底されていないという状況もあり大きな問題です。撲滅委員会でこのようなことも含めた幅広い視点で議論を展開されるのはよいことだと思います。

 いま一番大事なことの一つは、サービスの提供がきちんとなされることとともに、国民1人ひとりが取り組む努力の重要性を再確認することではないかと思います。

 「だれが運転席に座っているか」と英語圏でよく言いますが、各人が主体性を持って取り組むことが必要ということかと思います。予防活動が社会運動として実際に効果をもたらすには、運転席に座るのは、国民であり、患者であり、リスクを抱えた人である、ということを確認することが重要であると改めて感じた次第です。

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 □生命科学振興会理事長 渡邊昌氏

 ■長野・佐久研究で顕著な成果

 ≪体重や腹囲はいずれも歩数が増えるほど減ってくる≫

 長野県佐久市で佐久肥満克服プログラムをしています。人間ドックに通っていた肥満者を対象にA・Bの2群に分け、肥満のリスクを知って自分自身で改善したいという気持ちで自分にできる目標を立ててもらう。例えば、「おやつは食べない」「毎日1万歩歩く」などで「認知行動変容療法」といわれる方法です。3カ月ごとに健診し、運動・食事の支援をしました。男性113人、女性116人が参加し、脱落率は5%と優秀です。

 A群では1年間介入した結果、男性は、平均体重が85・6キロから5キロ強やせ、平均体脂肪も28・9%から3%近く減少。女性は、75・1キロから4、5キロやせて、体脂肪のほうも40%から2%減になりました。

 やせられたのは食行動パターンの変化が大きく、男性では「15分以上かけて食べる」など、女性も、食べ方・食の動機・食事の規則性などが改善しました。

 身体活動は、「1日1万歩」を目標に始めました。最初に始めたグループは1年間で7400歩から9000歩にふえました。その後の1年間は介入しなかったのに、まだ介入前の5割増しの運動量を保っています。

 B群の方は、1年後に初めて介入したのですが、1万歩以上の成績を得ています。A群の状態を見て、自分たちも一生懸命歩こうとなったのでしょう。体重や腹囲の減少は男女とも同じで、いずれも歩数がふえるほど減っています。

 やせることにより、肥満ホルモンのレプチンは減り善玉ホルモンのアディポネクチンがふえました。一番顕著な成果が出たのは血圧で、収縮期血圧では男性が144mmHgから127mmHg、女性も138mmHgから127mmHgに減っています。

 その結果、高血圧症の有病率の変化は男性が22・4%から12・9%と半分近くに減り、女性も472%が16%と半分以上減りました。体重を落として運動習慣を身につけるだけで、これだけの有病率の減少があり薬が不要になった人もいます。1年後のリバウンドをみると、男性で平均0・65キログラム増に留まり、非常によい成績だと国際シンポジウムでも評価されました。

 医師・保健師・管理栄養士・運動指導士・事務の人たちとのチーム体制がうまくできたことが、成功のもとでしょう。参加者も、「大勢の人が自分を支えてくれている」と感じて頑張り通すことができたという感想を聞きます。何より、健康づくりは自分からという意識をもつことが健康長寿を目指す第一歩と思います。

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 □神戸市立医療センター 中央市民病院院長・日本動脈硬化学会理事長 北徹氏

■動脈硬化と生活習慣の関連。国際比較も

 日本動脈硬化学会は2007年に『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』をつくりました。アメリカのガイドラインは治療に力点をおいていますが、日本は病気の発症の頻度からみても、予防に力点を置くべきではないかと提唱したわけです。

 動脈硬化学会は、もともと出発の土台が高脂血症を基盤にしているので、それについての治療ガイドとして、2008年には『脂質異常症治療ガイドライン』を新たにつくりました

 動脈硬化の危険因子は脂質異常症以外に喫煙を含めてさまざまあります。メタボリックシンドロームについては基本的にそのキーファクターである内臓脂肪の蓄積を解消する食事療法・運動療法をまず厳重にすることが治療のエッセンスであることを踏まえて、項目に入れました。さらに、厚生労働省の特定健診・特定保健指導が昨年4月から始まったのを受けて、内臓脂肪型の肥満に起因する脂質異常症の生活習慣病により起こる心筋梗塞、心血管病から国民を守るという観点から、特段項目を設けて注意を喚起しました。

 先日、大阪で開かれた日本循環器学会で、アメリカ心臓会議と日本循環器学会のジョイント・シンポが開かれました。私は座長をつとめましたが、そのシンポの中で米国は基本的に、ヒスパニック(スペイン・メキシカン系)、アジア系(アジア・韓国・日本・中国)、それから、アフリカ系、ヨーロッパ系が集まってコミュニティーをつくっているので、心疾患の頻度の動向、生活習慣について、オリジナルな国との比較が可能であり、プロジェクトが続けられているという興味深い話を聞きました。その比較ができたら、動脈硬化性疾患が果たして人種をベースにしたものか、生活習慣に起因しているかなどわかってきます。

 日本ではすでに、広島大学の第二内科が中心となり、広島から、ハワイやカリフォルニア州に移民した日本人の疾病の動向と生活習慣との関係を調査していますし、アジアではシンガポールでメタボの頻度と生活習慣の比較を行っています。このような各国のデータが集まり、グローバルに議論ができる時代になると期待しています。

(2009/05/19)