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メタボリックシンドローム

【STOP! メタボリックシンドローム】小児肥満対策推進委員会が初会合

 ■小児期からメタボ対策を

 ■生活習慣病のリスク懸念

 子供のときからの肥満やメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が増えている。高カロリーの食事や運動不足が原因とみられ、成人してからの生活習慣病の発症との関連も明らかになった。こうした小児の生活改善を進める「小児肥満対策推進委員会」(委員長、大関武彦・浜松医科大学医学部小児科教授)が発足し、6月5日、東京で第1回の委員会が行われ、肥満と生活習慣病の関連、小児期メタボ対策などについて話し合った。(大串英明)

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 委員会の参加者は、大関氏のほか、副委員長、宮崎滋・東京逓信病院内科部長▽同、原光彦・東京都立広尾病院小児科部長▽同、堀川玲子・国立成育医療センター内分泌代謝科医長▽委員、宮地元彦・国立健康・栄養研究所運動ガイドラインプロジェクトリーダー。オブザーバーとして、農林水産省消費・安全局の浅川京子・消費者情報官

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 ■子供と大人、連関して捉える…大関武彦氏

 まず大関氏は、委員会の意義について、「大人の肥満を研究すればするほど、子供のときの肥満の影響がわかり、子供と大人を連関してとらえるべきだと強く感じています」と強調した。

 世界中で子供の肥満は、急増しており、社会問題になっている。例えば、英国や米国では1970年代から次第に増え、インフルエンザのパンデミック(大流行)にたとえられるほどだ。日本でも同時期から2000年にかけて増加傾向が続いた。

 また、子供のときの肥満・過体重が大人になってからの肥満・過体重につながっていくこともわかった。さらに、心臓病との関連も強く、18歳のときBMI(体格指数)が高いと大人になってから心血管病で死亡するリスクが高い−などの研究報告もある。

 大関氏は、「3〜6歳になると、脂肪組織が増え、それまで減少していたBMIが増加に転じる時期があるが、これが肥満のスタートライン。ちょうど小学校に入学するころで、これをターニングポイントとして小児肥満の解決を図ることが望ましい」とする。

 生活習慣病の問題としては例えば、睡眠時間が短いと、肥満のリスクが高まる。親の就寝時間が遅かったり、テレビを長時間みたりする子供は体重が増えやすい−などの研究結果もある。

 大関氏は、「食事に関しては、『食育』という概念が浸透してきており、文部科学省、厚生労働省、農林水産省などによる包括的なアプローチが重要だ。特に小児肥満・メタボに関しては、文科省の『栄養教諭』や栄養士、看護師らとの連携を取り、活動を繰り広げていく必要があります。なぜなら、子供の時期を健康で過ごすことが、大人の生活習慣病を予防するキーポイントになるから」と話した。

 ■子供でも血管は硬くなる…原光彦氏

 原氏は、臨床現場での研究から、子供のメタボ腹囲の基準値である「80センチ」について、小学生にはめったにいない(大きい)サイズでもあるので、平成17年の学童の生活習慣病健診データから、腹囲を身長で割る『腹囲身長比』(0・5以上は要注意)が妥当との認識を示した。腹囲身長比は、小児から成人まで、男女とも同じ基準値が使え、外国の大規模調査でも採用されている。

 子供の内臓脂肪面積を測定する際、CT(コンピューター断層撮影装置)を使うと放射線被曝(ひばく)の恐れがあるので、原氏は、腹部超音波で内臓脂肪を反映する「腹膜前脂肪厚」を測り、頸動脈の超音波で得られる動脈の硬さの指標との相関を調べている。その結果、10歳代でも、腹膜前脂肪厚が厚いほど、動脈の硬さの指標が高いことがわかった。これは子供でも内臓脂肪がたまると、血管が硬くなることを示している。肥満の子供でもやせてくると、血管が柔らかくなる現象もみられた。

 また、原氏の外来患者を含めた調査では、一般学童の1・4%、肥満児健診受診者の19%、小児肥満外来受診者の33%がメタボと分かった。

 ■高い欠食率、親にも問題…堀川玲子氏

 堀川氏は、成育医療センターで胎児期から始まるメタボに着目して、内分泌代謝科の医師や栄養士、看護師らと生活習慣病外来を開始している。「ずば抜けて子供の過体重、肥満が多いのは米国だが、欧米化している日本の現状から、米国化するのもそう遠いことではない」と危惧(きぐ)する。

 学年別の肥満児の出現比率は、思春期に男女とも肥満児が多くなる傾向にあるが、平成19年に高校生まで調査した結果では、特に男子の高校生が多く、これは思春期肥満の2番目のピークに当たるとし、将来、成人になってから肥満につながることを示した。

 堀川氏は、小児生活習慣病の問題点について、「小児期から肥満やメタボ、さらに動脈硬化などいろいろな病態が始まっていて、もうそのこと自体が小児にとっては病気といえるのではないか。子供の運動能力が低下していたり、肥満の子供たちは自己評価が低いことも多く、現在の生活にも支障が出ている」と話す。内臓脂肪型肥満は、小児でも認められ、例えば、成人でも内臓脂肪が100立方センチを超えたら異常なのに、300立方センチを超えている12歳もいた。肥満の子供たちは、首や脇の下に黒色表皮症などがよく現れるが、これは糖尿病予備群のしるしでもある。

 最近の研究報告では、肥満の子供が肥満の大人になるリスクは非肥満の子供の2倍▽4歳未満での発症は、成人肥満に移行する率・肥満度も高く、中でも14歳時の肥満がもっとも成人肥満と関連する−などのデータを明らかにした。

 一方、食の問題に関しては、「朝食欠食」の年次推移調査によると、年齢別では、1〜6歳児の欠食率がかなり高いことが分かった。堀川氏は、「これは明らかに親の問題で、20歳以上の欠食率の高さと比べなくとも、問題の根の深さを物語っている」という。「朝食孤食」も、特に小学低学年で増えており、「夕食時間」も遅くなり「睡眠時間」も短くなっていることが子供のメタボが増える要因となっている。堀川氏は、アディポシティーリバウンド(肥満度の再上昇)は通常7歳ごろであるのに、思春期に肥満の小児は、リバウンドが早く、特に3歳未満でリバウンドすると内臓脂肪量が多くなることを示した。こうしたことから「3歳児健診」をきっちり指導していく必要があることを強調した。

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 ■成人時の健康度を子供の時から理解…宮崎滋氏

 宮崎氏は、「大人で心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞になった人の過去を振り返ってみると、10年ぐらい前は、メタボと診断されていて、さらにその10年前は、ただの肥満とみられていた。今回の運動は、それをさらにさかのぼって、小児のメタボ・肥満を改善することで、成人したときの健康を取り戻すことも可能だとする。いわばメタボの原点から健康度を探るという意義深い試みではなかろうか」と語り、子供たちにも直接理解させるよい機会をつくれたらと強調した。

 ■日本型食生活の実践をアピール…浅川京子氏

 「食育」の推進に携わる農林水産省の浅川氏は、食の消費構造が大きく変化したことを挙げ、「外食が多くなったり、お総菜を買って食事を済ます『中食(なかしょく)』が増えてきたりしている」と指摘。郷土料理などの伝統的な食文化を復活し、バランスの取れた食生活の実現について語った。

 生産者と消費者の距離が拡大、都会の子供の中には、「魚は切り身で泳いでいる」絵を描いたりするという。食育に関して農水省の立場から「日本型食生活」の実践をアピールする。それは、その地域の食文化を後代につなげ、「地産地消」を進めることにもなる。

 食生活改善については、厚生労働省と相談して「食事バランスガイド」を作り、外食で済ます人にも役立つようにした。

 また、子供バージョンの地域版食事バランスガイドもあり、教育の場で普及させたり、給食でよく出てくるメニューを取り入れたりしている。

 食事バランスガイドの認知度は70%と、広く知られているが、課題は実践度で、アンケートでは18%にすぎない。給食に関しては、文科省と協力し、小児肥満の解消を目指し、家庭での母親たちへの普及も推進していく。また、医療現場に呼びかけ、病院給食で地場の食品を使ったメニューにしたり、リハビリで農園を使ったり、地元の農家と病院が連携して活用する事業も募集している。

 ■身体活動の不足解消に工夫必要…宮地元彦氏

 宮地氏は、子供たちの身体活動量が、過去10年間に減少傾向にあり、このことが小児肥満の増加に関与する可能性を指摘した。その原因について、(1)TVゲームや携帯電話の普及で外遊びが少なくなった(2)学校も週休2日制で、友達遊びを含め活動量が減った−ことなどを挙げた。

 宮地氏は、文科省では、子供の体力低下問題とあいまって、平成23年度までに体育の授業数を再度充実させることを紹介するとともに、根本的な身体活動不足の解消のために、「子供たちが楽しく身体を動かせるような状況を作りたい。例えば、ゲーム好きな子供なら、ゲーム感覚で身体を動かせるIT機器やソフトゲームなどを活用できないか。子供たちになじみがあり、積極的に取り組め、一歩踏み出せるような価値観の変化を考え出すことが必要ではないか」と強調した。

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 産経新聞社では、「小児肥満対策推進委員会」を発足、小児期メタボ対策に取り組んでまいります。

 【主催】産経新聞社、小児肥満対策推進委員会

 【後援】厚生労働省、文部科学省、農林水産省、国立健康・栄養研究所、日本医師会、日本小児科学会、日本栄養士会、日本薬剤師会、日本看護協会、全国保健師長会、全国保健センター連合会、日本学校保健会、日本学校保健学会(一部申請中)

 【特別協賛】(社)米穀安定供給確保支援機構、(社)日本酪農乳業協会

 【特別協力】メタボリックシンドローム撲滅委員会

 【小児肥満対策推進委員会】◇委員長 大関武彦(浜松医科大学医学部小児科学教授)◇副委員長 宮崎滋(東京逓信病院内科部長)、原光彦(東京都立広尾病院小児科部長)、堀川玲子(国立成育医療センター内分泌代謝科医長)◇委員 和田高士(東京慈恵会医科大学総合健診・予防医学センター教授・付属病院新橋健診センター所長、鈴木志保子(神奈川県立保健福祉大学教授)、宮地元彦(国立健康・栄養研究所運動ガイドラインプロジェクトリーダー)

(2009/07/01)