【地デジ カウントダウン あと半年】(上) 普及率90%の虚構

高齢者除外、3重カウントも

【地デジ カウントダウン あと半年】(上) 普及率90%の虚構

 「昨年9月、地デジ対応受信機器の世帯普及率は90%を超え、出荷台数も、昨年末時点で1億台を超えました」

 1月24日、アナログ停波まであと半年のタイミングで行われた総務省と放送業界による「完全デジタル化最終行動計画」の発表会。冒頭、前提となる「現状」として先の数字が示され、地デジ移行がラストスパートの段階にあることが強調された。

 しかし、この数字について、砂川浩慶・立教大准教授(メディア論)は「大本営発表だ」と切り捨てる。

 「90・3%とされる世帯普及率は、80歳以上のみの世帯が除外されている。普及台数はプラズマ・液晶テレビ、デジタルチューナーなど複数の種類を合算したもので、人によっては3重にカウントされている」

 総務省は普及率について「平成17年の最初の調査で、80歳以上は字が読みにくいなど負担が大きいので除外した。途中で調査方法を変えると比較できないので、そのままやっている」(放送技術課)と話す。

 行動計画発表に出席した平岡秀夫総務副大臣は、報道陣に「最大の課題」を問われ、こう述べた。「サイレントな(声を上げない)方への普及。高齢者については、いま十分な状況が分かっていない」

「どう受信すれば…」

 自治体による高齢者世帯への訪問に同行した。

 「地デジに対応しているか? それは知らないな」

 東京都墨田区の田中栄治さん(80)は、区の地デジ担当者の前で首を振った。1年前、映りが悪くなって買い換えたテレビ。地デジ対応テレビでアナログ放送をずっと見ていた。「どう受信すればいいか分からなかった」という。

 家は建設中の地デジの電波塔「東京スカイツリー」の足元の地域。気になる噂があった。「スカイツリーは遠くに電波を飛ばすので、真下には電波が降ってこないという話がある」

 「心配ご無用です」と担当者は説明したが、田中さんは不安がぬぐえない。

 「ご自宅のアンテナは、“魚の骨”ですか」

 電器店でこう聞かれたという東京都西東京市の70代の男性は、納得がいかない。「うちのは魚の骨だったから、安心していた。ところが、帰省した息子はアンテナ交換も必要だと言うんだ」

 魚の骨とは、地デジ受信に必要なUHFアンテナの例えだ。しかし、男性にとってアンテナは、「おわん型(BS用)か魚の骨か」の2種。停波後は使えないVHFアンテナも魚の骨で、混乱の元になっていた。

家庭のテレビ以外に

戸惑いは高齢者ばかりではない。東京都東村山市の男性会社員(38)は、カーナビのテレビを久しぶりに使い、地デジ移行をうながすメッセージが出たのに驚いた。カーナビ本体には「DIGITAL」の文字があったからだ。

 「テレビもデジタルだと思っていた。買い換えなければならないのか」と男性は不満顔だ。

 家電量販店によると、地デジ非対応のDVDレコーダーが、停波後は録画できなくなることを知らずに使っているケースも多いという。「テレビの地デジ化は大体理解されたが、レコーダーも買い換えが必要だとは気づいていない人もいる」と担当者は話す。

 “盲点”は、まだ意外なところに潜んでいる。

 7月24日のアナログ停波まで、あと半年を切った。戸惑う人々、「完全移行」実現に取り組む自治体や放送局…。その表情を追う。

【用語解説】完全デジタル化最終行動計画

1月24日から7月24日まで、政府や放送局など地上デジタル放送関係者が一体となって取り組む。政府は地デジが視聴できない世帯の実態把握に加え、高齢者向け相談窓口、戸別訪問などの体制を整備し、放送局はアナログ放送での常時告知字幕の強化などを行う。同時に、地デジボランティアによる高齢世帯への声かけなど、「国民運動」も展開する。

2011年2月10日付 産経新聞東京朝刊


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