最強!サムスンを徹底解剖

スピード・資金力、群を抜く

サムスン

 米ラスベガスで13日まで開かれていた世界最大規模の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」。展示の規模や内容で他を圧倒し、最も注目を集めたのが、韓国が世界に誇る総合電機メーカーのサムスン電子だ。かつては話題の中心にいた日本メーカーは「技術的にも先に行かれた」(大手幹部)とほぞをかむ。強さの秘密はどこにあるのか。付け入るすきはないのか。サムスンを徹底解剖した。

 ◆会見場に長蛇の列

 CES開幕前日の9日、市内ホテルの会見場の前に500メートルも続く長蛇の列ができた。開幕を待ちわびる“徹夜組”ではない。サムスンの記者会見に押し寄せた記者たちだ。1500席が用意されていたが、会場は立ち見であふれた。

 異様な熱気に包まれるなか、サムスン米国のティム・バクスター社長らがハリウッドスターのように派手に登場。会見時間45分のうち30分をたっぷりと米グーグルのネットサービスに対応した「スマートテレビ」の説明に費やした。

 「スマートテレビでいろいろなコンテンツをつなぐと、生活はシンプルでもっと楽しいものになる」。バクスター社長は、こう胸を張った。

 日本勢がまだなしえていない大型有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルを使った「アルティメット(究極の)テレビ」も出展したが、会見では最後にさらりと触れた程度。フルハイビジョンの4倍の解像度を持つ4Kテレビでも東芝が昨年末に発売した55型の上を行く70型を展示したが、会見では紹介すらせず、“層の厚さ”を見せつけた。

 ◆日本を気遣う余裕

 「ハイ、TV!」

 開幕したCESのサムスンのブースでは、声や手の動きで音量やチャンネルを変えることができるスマートテレビの操作を実演で紹介。「ボリュームダウン」や「チャンネル1」など指示は英語だが、担当者は「英語のなまりも認識するので、世界中の誰が使っても大丈夫」と、グローバル仕様を強調した。

 演出も巧みだ。タブレット型多機能端末「ギャラクシー・ノート」を紹介するコーナーでは、本物の絵描きが付属の筆記具で有機ELパネルに書き込みができる機能を使い、似顔絵を描いてくれる趣向が好評で、連日長い行列ができた。

 出展担当者は「サムスン製品を持つことは米国人にとってステータスになっている」と、ブランド力にも自信満々だ。

 「日本はあまりに先行したためか、今はちょっと力がなくなってしまった。中国は若い国で、一生懸命追いつこうとしているが、韓国についてくるにはまだ少し時間がかかるようだ」

 会場を訪れた李健煕会長のせりふだ。5年前に韓国の位置づけを先行する日本と猛追する中国の間に挟まれた「サンドイッチ」と表現していたが、今や日本を気遣う余裕すら漂わせた。

 ◆一気呵成に市場制圧

 「展示スペースの確保からブース全体の構成まで力の入れ方が違う」

 「日本メーカーで同じクオリティーの展示ができるところは一つもない」

 敵情視察に訪れた日本メーカー担当者は、驚嘆するしかなかった。

 パナソニックの大坪文雄社長は「ここ数年、会場では韓国企業の勢いを実感する」と率直な印象を語る一方で、「品質では負けない」と、対抗意識をあらわにした。

 サムスンの最大の強みは、世界各地の異なるニーズや消費者の好みをきめ細かくくみ上げ、製品に反映させるマーケティング力にある。米国ではテレビの薄さや軽さを追求し、洗練されたデザインを取り入れ、今や「高級ブランド」と認知されている。

 巨額の研究開発費を投じるとともに、日本のメーカーからも大量の技術者を引き抜き、技術力でもキャッチアップしてきた。しかも、新しい技術を製品にするスピードが速い。一気呵成(かせい)の設備投資による量産でコスト競争力を高め、宣伝広告費も惜しみなく投入し、市場を制圧する。

 昨年7~9月期のスマートフォン(高機能携帯電話)の世界シェアで、米アップルの「アイフォーン」を抜き、首位に立った「ギャラクシー」は、サムスンの戦略の象徴だ。

 日本メーカーの技術者は、「テレビの画質や音のバランスでは、まだ優位性がある」と、技術力に裏打ちされた細かい品質では勝っていると強調した。

 だが、開発・生産・販売の総合力を磨かないと、技術も宝の持ち腐れだ。世界市場でサムスンの背中はさらに遠くなりかねない。(古川有希)

2012年1月23日 産経新聞 東京朝刊


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