スティーブ・ジョブズの製品哲学

元アップル副社長に聞く

カルテル

■「究極のデザインは卵」

 昨年10月に死去した米アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏は、高機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)」など革新的な製品を世に送り、パソコン、電話などさまざまな文化を変えた。その発想の源流はどこにあったのか。元アップル上級副社長で『ジョブズ・ウェイ』(ソフトバンククリエイティブ)の著者、ジェイ・エリオット氏(70)にジョブズ氏の製品哲学、デザインへのこだわりについて聞いた。(森本昌彦)

 ◆体の一部のように

 エリオット氏は1980年から86年までアップルに在籍。人事などを担当する上級副社長としてジョブズ氏を補佐。マウスによる操作とグラフィック表示を取り入れたパーソナルコンピューター「マッキントッシュ(Mac)」の開発にも関わった。

 「彼の製品哲学は、誰でも直感的に自分の体の一部のように使えるということが大事で、5歳児でも使えるプロダクト(製品)を目指していた」

 たしかにMacから、携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」や「iPhone(アイフォーン)」まで使いやすさという点は共通する。この観点で、ジョブズ氏はMac開発時から、どうやってキーボードをなくしていくかを構想していたという。その発想はMacにおけるマウス操作、iPhoneやiPadのタッチパネル操作、日本では今年3月から提供が始まった音声認識機能につながった。

 ◆仏教の影響大きく

 ユーザーの使いやすい製品を作る。そんな製品哲学はどんな人間性から生まれたのか。エリオット氏はジョブズ氏が傾倒した仏教の影響を挙げる。

 「商品づくりやデザインで本当にシンプルなものにひかれていた。仏教の精神は自然と調和しているシンプルなものだし、彼の生活も非常に質素で、お金にまったく価値を見いだしていなかった」。そのこだわりを示すエピソードとして、ジョブズ氏はMacの開発時に「究極のデザインは卵だ」と発言していたという。アップル製品のカラーに白が多いことに加え、iPodなどでのボタンの少なさに卵からの影響があるとエリオット氏はみる。

 ◆未来見据えた完璧

 シンプルを追求する一方で、ジョブズ氏は製品の細部までこだわったことで知られる。あるとき、プライベートで購入したオーディオにまったく雑音がなかったことに感動したジョブズ氏は、「Macは音がないようにしろ」と厳命。当時は必須だった熱放出のための冷却ファンをなくすことになり、発売予定日が遅れた。

 「素晴らしいアイデアだったが、あまりに先を行きすぎていて、僕も『これは無理だ』といったが、駄目だった」とエリオット氏。多くの人が見落としがちな細部へのこだわりは、ジョブズ氏の「未来に向かっての商品づくりは完璧でないといけない」という考えがあったという。

 「未来を見据えた商品を作るビジョンを持った人は今、ほかにはいないと思う」とエリオット氏は振り返る。利用者の立場から、未来の製品を構想する力を持っていたからこそ、パソコンから音楽、電話の世界まで変えることができたのだろう。

2012年5月14日 産経新聞 東京朝刊


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