共感広げるAKB48の泥臭さ

【Theリーダー】第5部(4)

リーダー4

 人気アイドルグループ「AKB48」のファンが投票し、メンバーの人気順が決まる年に一度のイベントが国民的行事ともいわれるようになった。このイベントが「選抜総選挙」と銘打っているように、政治と比べて論じられることもあるAKB48だが、華やかな活動の裏には政治家に見られなくなった泥臭さと地道さがある、と評論家の浜野智史(31)は指摘する。

 メンバーは東京・秋葉原の専用劇場で公演を何百回も繰り返し、新曲の発売時などには全国各地で数千人に及ぶファンとの握手会をひたむきにこなす。1人数秒程度の短い交流だが、中にはアドバイスしてくれたファンの名前や顔、その内容のほか、手渡されたファンレターの文言を詳細なメモにまとめて何度も読み返し、握手会に臨むメンバーもいる。

 かつて田中角栄は「歩いた家の数しか票は出ない。手を握った数しか票は出ない」と言い、竹下登は地元有権者の情報をびっしりと書いたメモ帳を作った。

 AKB48の熱烈なファンでもある浜野はかつての日本のリーダーが人知れず続けた努力に思いをめぐらせ、「一人一人と愚直に向き合い、支持を広げていく選挙戦略がエンターテインメントの世界で継承されているかのようだ」と語る。

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 総選挙がシングル曲を歌う16人を決める真剣勝負であるように、AKB48には厳しい競争がある。正規のメンバーにもなれず、下積みのまま去っていく人もいる。

 「昨年、努力は必ず報われると言いました。でも、ある方は、努力は報われないと言いました。そうかもしれない。でも、努力をしなきゃ始まりません」

 グループのリーダー的存在である高橋みなみ(21)は総選挙でこうスピーチした。この言葉は壁にぶつかって悩む後輩に向けたとも「努力が報われるなんて嘘だ」と握手会で訴えたファンに向けたともいわれる。

 高橋のメッセージはファンらに共感を広げたが、AKB48の著書もあるフリーライターの本城零次(34)は、それには理由があると言う。「困っているメンバーがいれば声をかけ、下積みの研究生の練習にも付き添う。レッスン場にはいつも最後まで残る。そういう姿勢にみんながついていくが、多くの挫折を経験しながら前に進んできたメンバーたちの生き方とスピーチが重なるから共感が広がるんです」

 「ガチ」という言葉が象徴する真剣勝負の姿勢は、「まじめぶるのは格好悪い」と思う若者に真正面からぶつかることの大切さも伝える。本城は「AKB48はアイドルの枠を完全に超えている」とまで評する。 (敬称略)

2012年7月16日 産経新聞 東京朝刊


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