温首相、「遺言」で習路線を批判

真っ向対立 改革回帰訴え

温家宝首相

 【北京=矢板明夫】5日に開幕した全国人民代表大会(全人代=国会)で、温家宝首相が読み上げた政府活動報告の行間からは、習近平共産党総書記が推進する保守、民族主義路線への不満がにじみ出ていた。党内最大の「改革派」といわれる温首相は、政治の表舞台における最後の発言機会を使って、改革路線への回帰を強く訴え、習指導部を牽制(けんせい)した。

 党内で深刻化している腐敗問題について、温首相は「権力が過度に集中し、制約を受けていない状況に対し制度面から是正を行うべきだ」と訴えた。「制度改革」を何よりも重視する温首相は、習氏が主導する政治運動のような反腐敗、反浪費キャンペーンを暗に批判したものとみられる。

 温首相はまた、「民主的な監督、法律に基づく監督、世論による監督を堅持し、権力のオープンな運用を実現する」と強調した。この主張は、党員に対するモラル教育や党による管理、監督の強化を打ち出す習総書記の方針と真っ向から対立したものといえる。

 さらに、最近5年の中国外交について「主要国との関係を積極的に推進し、周辺諸国との互恵協力関係を強化した」と総括した。沖縄県・尖閣諸島をめぐる日本との最近の対立には触れなかった。昨年秋以降、習氏が主導した対日強硬外交を完全に無視することで、不快感を表明したととらえられている。共産党筋によれば、温首相は1月末のある会合で「数十年間推進してきた善隣友好外交が一瞬にして台無しになった」と習氏の外交路線を批判したという。

 習氏が党総書記に就任した昨年11月以降、太子党(高級幹部子弟)関係者による不動産投資が活発化し、主要都市部の不動産価格が高騰、胡錦濤政権が力を入れてきた不動産価格抑制策が破綻したことにも大きな不満をもっているという。この日の報告でも「投機的な住宅需要を断固抑制しなければならない」と力を込めた。

 政府活動報告は、温氏周辺の官僚らで構成する専門チームが執筆。最後となる今年の報告をめぐって温首相は何度もチームのメンバーと面会し、細かい指示を出していたという。共産党筋は「今年の報告は温首相の政治的遺言のようなものだ」と語った。

2013年3月6日 産経新聞 東京朝刊


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