過去への謝罪は無駄である

【一筆多論】乾正人

過去への謝罪は無駄である

 今年も8月がやってきた。

 今夏もまた、首相が靖国神社に参拝するか否かが、アジア諸国を巻き込んで大きな政治問題になっている。しかも年を追うごとに、中国や韓国の「日本たたき」は常軌を逸するレベルに達している。ことに韓国がひどい。

 慰安婦とは何の関係もない米西部の小さな市にまで慰安婦像をつくり、捏造(ねつぞう)された反日情報を広めようという彼らの暗い情念には、ため息しか出ない。と同時に、とことん論議しても平行線をたどらざるを得ない歴史認識問題をたきつけ、日米韓の離間を図ろうという水面下の動きもほのみえる。

 韓国の国家情報院は7月30日、北朝鮮の情報機関やハッカーを手助けしたとしてIT企業代表の自宅と事務所を家宅捜索した。北朝鮮が、韓国内外のパソコン11万台に不正プログラムを感染させた事件の裏に自国民がいたようである。ソウル発の聯合ニュースは、会社代表は、学生運動の経験者で、中国で北朝鮮の工作員と接触した可能性があると報じている。

 韓国の「左翼」には、日本はもちろん、自国の政権よりも北朝鮮や中国に親しみを感じている人が圧倒的に多い。彼らとその影響を受けている韓国メディアがことあるごとに、竹島や慰安婦問題を持ち出す動機のひとつが日米韓の分断にあるとすれば、どうだろう。

 日本の「識者」と呼ばれている諸先輩の中には、日本はさきの大戦への謝罪と反省が不完全だから中国や韓国とうまくやれない、と主張する人がいる。失礼ながら考えが浅いにもほどがある。

 この際、はっきり書いておこう。日本の首相が、さきの大戦や慰安婦問題について膝を屈して謝っても中韓は、「歴史カード」を手放しはしない。もちろん、靖国神社に参拝しなくとも、である。

 今から18年前の8月15日、村山富市首相は「痛切な反省」と「心からのお詫(わ)び」を表明した。世にいう「村山談話」である。

 官邸詰めの記者だった私は、「『国策を誤り』と談話にあるが、どの内閣のどの政策が国策を誤った、と認識しているのか」と質問したが、具体的な答えはなかった。そんな不完全な論証の上に立つ「村山首相が在任中、最もこだわった」(当時の政府高官)談話は、現政権に至るまで踏襲されてきた。だが、日本と中韓との関係は、談話を出す前よりも悪くなったのはご存じの通りである。

 慰安婦問題もしかり。平成5年、朝日新聞や日本の一部弁護士が火を付けた「従軍」慰安婦問題は、日韓間の大きな懸案になっていた。政権末期だったにもかかわらず、宮沢喜一内閣の河野洋平官房長官は、具体的な証拠もないまま、強制性を認めたかのような「河野談話」を発表。これが今日まで禍根を残すことになった。

 終戦から68年。この長い時間の中、「未来志向」という歯の浮くような外交辞令を何度聞いたことか。政治家個人の浅はかな戦争への贖罪(しょくざい)意識は、強固な反日教育を続けている国家には通じない。むしろ、逆手に取られ続けてきた。

 8月15日は心静かに戦没者の霊を慰め、不戦を誓いたい。それがかなわぬ夢であったとしても。(論説委員)

2013年8月5日 産経新聞 東京朝刊


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