開けてみれば…奇想天外

彫刻の森美術館「ミーツ・アート 森の玉手箱」

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 緑豊かな自然と彫刻が溶け込む神奈川県箱根町の「彫刻の森美術館」で、30代から50代まで8人のアーティストが参加した展覧会「ミーツ・アート 森の玉手箱」が開かれている。光を使った作品や紙の草花、巨大なミノムシまで登場するアートは、玉手箱を開けたような楽しさがある。(渋沢和彦)

 本館ギャラリーと屋外を使った展示で、まずびっくりさせるのが、漫画家、しりあがり寿(ことぶき)の作品だ。ギャラリー1階の一室に、30個のだるまが台座の上に並べられている。かねて回転ということに興味を覚えていたという作者は「隙あらば回してみせよう」と考え、だるまにモーターを仕込み回転させた。それぞれから別の歌が流され、部屋全体はノイズのような音の洪水。だるまは普段は鎮座しているものだが、これだけびっしりと並び回転していると、異様であり壮観だ。

 これに対し、隣の部屋に設置された渡辺英司の作品「図鑑庭園2014」は静か。床には無数のチューリップやバラの花、キノコなどがびっしりと置かれ、窓の外にも続いていく。花は本物ではなく、紙で図鑑から切り抜いて立てた。小さな図鑑から切り抜かれ、立体となって庭園を形成する。意外性があり、本の持つ無限の可能性をも感じさせる。

 真っ暗な部屋の中に光の作品を発表したのが足立喜一朗だ。「パラボラ」と題され、床や壁面にゆらゆらと光が浮かぶ。作者は「木漏れ日を表現した」という。木々が生い茂る美術館の敷地には木漏れ日はいっぱいある。あまりにも自然が豊かなため意識しない。室内であえて木漏れ日を出現させたのがミソ。空間を体験することであらためて自然の豊かさを実感させるわけだ。

 さらに光を意識させるのが北川貴好の「栞壁(シオリカベ)」だ。展示スペースの本館ギャラリーには明かりを取り込むスリットがある。北川はそこから入り込む光を、いくつかの壁を組み上げてふさぎ、暗闇を作り出した。そこでは箱根で自身が撮影した太陽や風景の映像を投影。室内の光と映像の中の光が織りなす幻想空間。意識しなかった建築の切れ目に着眼し、重要な意味を持たせる試みは作者の鋭利な感性をうかがわせる。

 さらにびっくりさせるのが角野(かくの)晃司の作品で、長さ約2メートルの巨大なミノムシだ。骨格は鉄のフレームだが、ほとんどは公園などで集めた木々が素材。中は空洞となっていて人が入ることができる。まだ姿を現していないが、展示期間中(5月2~6日、8月9~13日)はケヤキの巨木に吊るされ、作者自身が中に入り込む。頭と片手を外に出し、スマートフォン(高機能携帯電話)で来館者を写したり、会話をしたり。ツイッターで発信もするという。

 角野は平成22年、自然の中のアートイベントで初めてこの作品を作った。なぜミノムシなのか。「引っ込み思案で内にこもる性格。自分がミノムシに近い」と角野。だから、ミノムシという仮の姿となって外とつながりを持つ。ほかに、透明な素材を用いて体を表現した木村幸恵の作品や谷山恭子の参加型アート、白い箱に「ど幸せな結末。」などの言葉が書かれたイチハラヒロコの作品があり、まさにワクワクさせるアートが出てくる玉手箱のようだ。

 8月31日まで、神奈川県箱根町二ノ平1121、彫刻の森美術館。無休。一般1600円。(電話)0460・82・1161。

2014年4月24日 産経新聞 東京朝刊


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