離乳食「だし」にこだわり

和食派の育成目指す

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 和食は世界に誇る健康的な食事。ところが、みそなど和の調味料やコメの国内消費量は減少の一途で、和食離れが言われて久しい。そんな中、「和風だし」にこだわった離乳食が注目を集めている。早い時期にだしの風味に親しむのは、将来的にだしを利かせた低カロリーな食事を好むことにつながるという。(榊聡美)

薄味でもおいしい

 昆布に煮干し、カツオ節-。丁寧にだしを取った鍋が調理台に次々と並ぶ。ここは和食店ではなく、新田保育園(東京都足立区)の給食室だ。

 「離乳食用に、いつも3種類のだしを取ります。野菜やお肉など、材料に応じて使い分けています」と、栄養士の田中登代子さんは説明する。

 この日の離乳食は、おかゆ、みそ汁、ゆでカボチャ、煮魚、切り干し大根の煮物と、純和風のメニュー。

 昆布だしは、料理に使うだけでなく、鍋ごとテーブルへ。おかゆやおかずが飲み込みにくそうなときは、軟らかくするために、このだしを少量加える。また、コップに注ぎ、水やお茶の代わりにしても飲む。

 「子供たちは、このだしが大好きなんですよ。ちゃんと取っただしは、香りも味も全然違う。薄味でも、だしの風味でおいしく食べられるし、体にもいいですから」

 食育に力を入れる同園は、和食を中心にした手作りの「家庭の味」を守り続ける。

 「ファストフードが好きになったりして、こういう味は好きじゃなくなる時期がある。でも大きくなり、頭で考えて食べるようになると和食に戻る。そういう願いも込めて調理しています」

健全な味覚育む

 食品大手の明治(東京都江東区)は、だしの風味にこだわった新発想のベビーフードを今月19日に発売する。「みかくのはじまり」という商品名が示す通り、乳幼児期からの味覚形成をテーマにした、これまでにないベビーフードだ。

 同社が着目したのは、子供の肥満や生活習慣病患者の増加。食の多様化が進み、伝統的なだしの味を知らないまま、高カロリーになりやすい砂糖や油に偏った食事を選ぶ傾向がある。

 同社と共同研究を行った京都大学大学院農学研究科の伏木亨教授は、こう話す。

 「油の味や甘味は、生物が本能的においしいと感じる味で、やめるのは難しい。それに対抗できるのが、だしなのです。和食の味わいはだしで決まり、砂糖や油を大量に使わなくても十分、満足できる」

 実験を通して、だしは「もっとほしい」と思う、「やみつき効果」が高いことが明らかになった。乳幼児期からだしの味に慣れさせ、だしを利かせた低カロリーな食事も「おいしい」と感じられる味覚を育む。そのために、だしの本格的な風味にこだわった離乳食を商品化した。

 だしは京都の老舗料亭「木乃婦(きのぶ)」が監修。3代目の高橋拓児さんは「ゆくゆくは日本料理のおいしい味が分かる人に育ってほしい、という思いで携わりました。昨今の和食離れを食い止めるきっかけになれば」と期待を寄せる。

 「みかくのはじまり」は、「肉じゃが」「野菜煮込みうどん」など計8品。見た目や食感は従来品と差はない。しかし、カツオ節や昆布の香りが立ち、しっかりとうまみが効いた味わいは、大人にも通じる和食のおいしさそのものだ。

 和食はユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録されてから、改めてその良さが見直されている。子供の味覚は、だしで育てるという意識が一層、高まりそうだ。

2014年9月07日 産経新聞 東京朝刊


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