訪日客の最大の楽しみは「日本の食文化」

魅力はうま味の繊細さ

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 和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて1年余り、日本を訪れる外国人の一番の目的は「和食を食べること」と注目が高まっている。海と山の幸に恵まれた日本は独特の食文化を育んできたが、だしのうま味などの繊細な味わいに人気の秘密が隠されているようだ。(谷口康雄)

「買い物」引き離し

 観光庁の「訪日外国人の消費動向」によると、昨年1年間で日本を訪れた外国人旅行者が「旅行中に実施したこと」(複数回答)として97%が「日本食を食べること」をあげ、2位の「ショッピング」77%を引き離した。同報告書の10~12月期でも「訪日前に期待したこと」「滞在中にしたこと」「滞在中にしたことの満足度」で「日本食を食べること」が1位だった。

 味覚に関する研究などを行っているAISSY(東京都港区)は、料理や飲料を「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「うま味(旨味)」の5つの基本味で数値化した。図のように、みそ汁、吸い物は「うま味」が高数値で、「甘味」「酸味」「苦味」は低く、世界三大スープに数えられるブイヤベース、トムヤムクンなどとは対照的で、日本の料理は「うま味」に特徴があるとする。

 生活文化史学者で「和食と日本文化」(小学館)などの著書がある国士舘大学21世紀アジア学部の原田信男教授は「日本では魚醤(ぎょしょう)から発達させた穀醤(こくしょう)をベースとして用い、アミノ酸発酵などの発酵技術を発展させ、グルタミン酸、イノシン酸をはじめ、だしによるうま味を味付けの基本とした食文化を展開してきました。米コウジカビ菌の効果的な利用法として、みそ、しょうゆ、酒、みりん、酢などを巧みに使いこなしてきました」と指摘する。

 さらに「優れた料理文化は必ず独自のスープストック的な味のベースを有しています。日本では、だしであり、風土に合った食材に適応させ、汁ばかりでなく煮物やあえ物、さらにはソースとしての餡(あん)に用いて食味の幅を広げてきました」と説明する。

 だしソムリエ協会(同新宿区)の鵜飼真妃代表は「だしは素材そのものからうま味、香り、風味などを引き出したもの。だしは素材の数だけあります。調理の過程で取れるものもあれば、独立した作業で取るものもあり、後者の代表的なものが日本のだしです」という。

香りも大きな要因

 にんべん(同中央区)は元禄12(1699)年に創業し、かつお節を主力商品に日本のだし文化発信の取り組みを重ねる。1杯100円でかつお節だしを提供する「日本橋だし場」を平成22年10月に開設し、今年1月に55万杯を達成した。

 同社の広報担当者は「気軽に本物を味わっていただき、コミュニティーの生まれる場でありたいという願いを込めています。ほっとする、安心できるという声が寄せられています」と話す。「若いお客さまが増えるとともに、売り場に入られ、だしの香りに誘われる方も多い」と、香りも大きな要因のようだ。

 茶の品種改良などに取り組んでいる静岡県立大学の中村順行特任教授も「味わいで見落とすことのできないのが香り」と指摘する。中村特任教授は、カフェイン、渋味を感じさせるカテキン、うま味をもたらすアミノ酸を茶の味わいの主な成分とし、日本茶は低温でも浸出するうま味を生かし、熱湯で強く出る香りや渋味とバランスを取ることが大切という。

 「茶の葉は太陽の光を受けると硬くなり、アミノ酸が減り、カテキンが増加します。被覆栽培をし、うま味を多く含むのが玉露。熱湯でいれないのは渋味を抑え、うま味を生かすためです。日本茶は低温でも浸出するほのかな新緑の香りを大切にしていますが、初物をめで、繊細な味わいを楽しむ日本の食と同じです」

2015年3月6日 産経新聞 東京朝刊


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