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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>


 Web版「正論」コラム
 「癒しと感動の二日間」
 日に日に緑が濃くなり、すっかり初夏という気候になってしまったが、まだ肌寒さを感じていた四月の終り、私は週末の勤務を終えてそのまま新幹線で福島に向かった。

 小誌は数年前から、表紙に写真家・秋山庄太郎先生の作品を使い好評を得ているのだが、ご存じの通り、先生は今年の一月にお亡くなりになった。恐れ多くも若輩の私が表紙の担当だったため、約二年程先生や事務所の方たちと仕事を通じて親しくさせて頂いていた。  数ヶ月に一度というペースではあったが、西麻布のフォトスタジオにお邪魔して、女優さんたちについてのお話を伺った後、先生や事務所の方と呑みながら雑談するのがとても楽しく、今思えばそれは何と貴重な時間だったのだろうか・・・。

 生前最後にインタビューでお会いしたとき、先生は福島にそれはそれは美しい桜の咲く山のお話をしてくださった。その山はその名の通り「花見山」といって、花木農家が満開の数種類の花が咲く土地を一般に開放して、毎年多くの来園者で賑わっているという。お話を伺ったときは、ただ漠然と綺麗なんだろうな・・・という印象しか持たず、「機会があったらぜひ行ってみます」と言ったものの、東北という距離と時間に追われる毎日を考え、半ば諦めていた。

 福島行きが現実となったのは、ひとえにかつて秋山スタジオで先生のアシスタントをされていた方のお陰だった。福島では先生がお元気だった頃から、先生の写真館を建設する計画があり、その方はそこの企画室長として尽力されていた。ようやく今年の四月十日にオープンしたとのことで、「先生が大好きだった花見山、そして先生が本当に楽しみにしていた写真館を見に来ませんか」とのお誘いを受け、先生を偲ぶためにも・・・と思い、伺ったのだった。

 「福島市には桃源郷がある」と先生が絶賛された通り、花見山公園に咲き乱れる菊桃、レンギョウなどなど、今まで目にしたことがない様な景色、まさに絵になる風景に終始感動していた。そこへ訪れる観光客はただ純粋に花を楽しむために来ているので、混雑しているにも関わらず、感心するほどマナーが良く、ごみ一つ落として行かないのだと持ち主の方がおっしゃっていた。周りの山々の桜も見事で、葉桜になったあとは、梨の白い花が一面に見られるそうだ。東北という距離に少し腰が引けていたのだが、東京から新幹線に乗れば一時間半程度。こんな身近にこんなすばらしい所があるのかと、日頃の行動半径の狭さを思い知らされた。

 福島市森合町に建てられた写真館の名は「花の写真館」。名前だけ聞くと、秋山先生との繋がりを感じないのだが、先生が生涯を通じて撮られた花の作品が中心に展示されている。大正時代の旧日本電気計器検定所を復元した建物で、重厚な作りがとても上品だった。それが先生の作品とうまく調和し、ほっと安らぐ空間になっている。亡くなってもなお、多くの友人やスタッフが先生を慕い、作品や思い出を守ろうと懸命に奔走している姿を目の当たりにし、かすかな感動を憶えずにはいられなかった。夏以降は順次企画展を開催されるということなので、できるだけ多くの人に気軽に訪れて頂きたいと思う。一泊二日の短い時間ではあったが、帰る間際には館長さんじきじきに市内ドライブに連れて行って下さり、目一杯深呼吸のできた旅であった。今度は寒くなった頃、秘湯にでも・・・。

「正論」編集部 桜木理恵

 平成15年6月11日   Web版「正論」コラム



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