お元気ですか。
ようやく臨時増刊「靖国と日本人の心」の編集作業を終えました。七月十日に発売されます。たくさんの方々に読んでいただきたいと思っています。定価860円。なにとぞよろしくお願いします。
書店でお求めになりにくい方はEメールで申し込んでくだされば、送料サービスで発送します。支払いは臨時増刊号と一緒に専用振り込み用紙を同封しますので、そのときにご入金下さい。
この臨時増刊で私は「神となった乙女たちーー靖国・遊就館で短かった青春を偲ぶ」というタイトルで一文を書きました。拙文の書き出しはこうです。
靖国神社は武士(もののふ)の社(やしろ)、旧軍人の社というイメージが世間一般には定着している。そのせいかもしれないが、靖国に五万七千余柱という地方 都市の人口に匹敵する女性祭神が祀(まつ)られていることは、案外知られていない。
靖国の祭神の総計は二百四十六万六千余柱。女性祭神が占める割合は二%強にすぎないが、五万七千余人の女性を神々とする宗派は世界のどこにも存在しない。古来、日本では女性が最高神(天照大神)であったように、そもそもからわが民族は 女性神を粗末にしてはいけないのである。
明治二年(一八六九年)十一月二十八日、靖国で第一回合祀祭(ごうしさい)が執り行われた際、一人の女性が祀られている。羽後国(秋田県)秋田郡扇田村の山城美與(やましろみよ)という秋田藩士の妻である。美與は明治元年(一八六八年)八月二十日、戊辰東北戦争で官軍側についた夫と共に食糧や弾薬の運搬を手助けしていたときに、流れ弾にあたって死亡したという。
明治新政府は、なぜ秋田の一主婦を当時は東京招魂社といわれていた靖国の女性祭神第一号にしたのか。これは推測するしかないが、秋田藩が奥羽越列藩同盟を離脱して官軍についたことと関係がありそうだ。秋田の寝返りは戊辰東北戦争に大きな影響を与えた。ちなみに会津藩は山城美與の死から一か月後の九月二十二日に降伏している。官軍は秋田藩の功績に報いるために山城美與の合祀を決めたのかもしれない。真偽のほどはともかく、東京招魂社以来、靖国が帯びる政治性はDNAのごとく宿命的であり、それは現在においても脱しきれていない。
メインのなる話は先の大戦で国に殉じた女性祭神の方々です。そんなわけで靖国神社の遊就館には何度も通いました。遊就館には戦没者の遺稿、遺影、遺品が数多く展示されています。それぞれにドラマが秘められているはずです。一点一点、丹念に見ていったら、とても一日や二日では足りません。
靖国では、遺族や戦友などの生々しい感情にしばしば出会うことがあります。靖国は死者と生者が本心で語り合う場でもあるようです。たとえば遊就館のさいごのコーナーである大展示室を出たところに遺族の方々の文章が掲示されています。『正論』八月号の「編集者へ・編集者から」でも紹介していますが、遊就館に展示されていた遺族のつぎの文章に思わず立ち止まりました。
天国のあなたへ 柳原タケ
娘を背に日の丸の小旗をふって、あなたを見送ってから、もう半世紀がすぎてしまいました。
たくましいあなたの腕に抱かれたのは、ほんのつかの間でした。
三二歳で英霊となって天国に行ってしまったあなたは、今どうしていますか。
私も宇宙船に乗ってあなたのおそばに行きたい。
あなたは三二歳の青年、私は傘寿を迎える年です。
おそばに行った時、おまえはどこの人だ、なんて言わないでね。
よく来たと言って、あの頃のように寄り添って座らせて下さいね。
お逢いしたら娘夫婦のこと、孫のこと、また、すぎし日のあれこれを話し、思いっきり甘えてみたい。
あなたは優しく、そうかそうかとうなづきながら、慰め、よくがんばったねとほめて下さいね。
そして、そちらの「きみまち坂」につれて行ってもらいたい。
春、あでやかな桜花
夏、なまめかしい新緑
秋、ようえんなもみじ
冬、清らかな雪模様
など四季のうつろいの中を二人手をつないで歩いてみたい。
私はお別れしてからずっとあなたを思いつづけ、愛情を支えにして生きて参りました。
もう一度あなたの腕に抱かれ、ねむりたいものです。
力いっぱい抱きしめて絶対にはなさないで下さいね。
戦死した夫は三十二歳のままで柳原タケさんの心の中に生き続けています。傘寿(さんじゅ)とありますから、この天国への書簡はタケさんが八十歳のときに書いたものであることがわかります。おそらくタケさん自身もずっと新婚当時の気持ちのままで夫と対話してきたのでしょう。
それにしても、なんとも瑞々しい文章です。愛情の継続性に驚嘆します。同時に、つかの間の新婚生活しか過ごせなかった時代に巡り合わせてしまった不遇にことばもありません。この一文をメモ帳に書き留めていましたら、三人連れの中年女性が立ち止まりました。彼女たちは読み終えたあと、嗚咽しながらその場を離れていきました。
「正論」編集長 大島信三
| 「正論」平成15年8月号 |
編集長メッセージ
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