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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>


【論文】 長寿の秘法 生活習慣病から身を守る方法
第八回 自宅でできる血液検査システムとは(1)


PCL中央研究所取締役副社長・医学博士 前畑英介
 −−現在、糖尿病の有病者数は約六百九十万人。疑いのある人は千三百七十万人とも言われ、その数は年々増え続けています。

 このまま増加傾向が進むと、十年後には男女合わせて約千八十万人にも及ぶと推定されています。まず糖尿病はどのような病気なのか教えて下さい。

 前畑 糖尿病は、昔から「尿に糖が出てくる病気」と恐れられてきましたが、血液中のブドウ糖(グルコース)濃度の異常をいいます。別名、血糖値といわれ、こちらの名称が定着しています。健康な人は空腹時には血糖値は低く、食後には高くなります。しかし糖尿病になると、この値が一定の基準範囲を超えて、どんどん上昇してしまうのです。

 普通は血糖値が上がると、それを下げようとするホルモンが膵臓から出されます。これがインスリンです。糖尿病はインスリン分泌能力が低下することにより血糖値が上がり、下がらなくなるのです。

 病型は、1型糖尿病と2型糖尿病に分かれ、1型はインスリン分泌が絶対的に不足した病態で、二十五歳未満の痩せ型に多く、発症は急激です。2型はインスリン抵抗性(インスリン作用にブレーキがかかった状態)の発現とインスリン分泌の相対的不足が主な原因です。この状態に生活習慣因子の悪化が引き金となり、特に四十歳以上の肥満者に多く、遺伝的要因を基本とします。特に日本の糖尿病患者の大部分はこの2型であると言えます。

 −−糖尿病と診断される基準は。

 前畑 一九九七年に米国糖尿病学会、一九九八年にWHO(世界保健機関)が行った試験結果を基準にしています。まず空腹時の血液中に含まれる血糖値が一二六mg/dL以上、また食後二時間以上経過したときの血糖値が二〇〇mg/dL以上が、糖尿病と診断されるようになりました。しかし糖はしばしば生理的変動があるので、血糖値を正常に保つ調整能力の低下をいう「耐糖能異常」かどうかも含めて判断することが望ましいでしょう。

ヒトのカラダの仕組み

 −−糖尿病は現代人には避けられない病気なのでしょうか。

 前畑 ヒトのカラダの仕組みは、縄文石器時代から変わっていないと思います。ヒトの元祖はアフリカで、これは遺伝学的にも証明されています。アフリカは砂漠が広がり食べ物がなく、その上でヒトが誕生したわけですから、ヒトには飢えと怪我と感染症との闘いが常に付きまといました。結局、ヒトは進化という恵みは与えられず、縄文石器時代の人間が今も生きていることになります。

 しかし現在、日本は長寿国です。なぜでしょう。健康なお年寄りは、昭和初期の貧しい戦前戦後時代に少年期、青年期を過ごしました。粗食に耐えていた時代であり、歴史背景を見てもヒトの寿命は食べ物と深く関わっていることを示唆しています。ですから、お年寄りがかつて食べていたようなものが直接今の長寿国を作ったと言えるかもしれません。

 ヒトはとても神秘的な生き物です。旧約聖書の創世記に、「神は人間を土からお作りになった」と書かれているのは有名な話ですね。実はこれは科学的に矛盾していないところがあります。土の構成成分を元素記号で表してみますと、ヒトのカラダを元素記号で表したものとよく似ているのです。ヒトの場合は、土に似た成分を持ち、そこにタンパク質と生命が入ったものと考えられます。そのタンパク質と生命の起源がDNAです。このDNAの存在が、人間の生体を司っているというのもまた、とても神秘的です。

ヒトのカラダの仕組みはまだまだ未知の分野ではありますが、基本的には、病気に罹らないようにできています。ホメオスターシス(生体恒常性)という恵みがカラダのあらゆるところに働いていて、少々無理をしてもカラダは元に戻ろうとする仕組みになっているのです。また、生体のエネルギーバランスもその例なのです。

キーワードは野菜・魚・運動

 −−それなのに病気になるというのは、やはり食事が原因なのですか。

 前畑 簡単に言えば、現代人の食生活が欧米化し、肥満(体脂肪の増加)が多くなってきたことにあります。欧米食は日本人のカラダになじまず、ホメオスターシスの能力を超えた負担がかかり、体脂肪量調節機構が破壊され、カラダのコントロールが効かなくなってしまったのです。

 食べ物は異化(栄養素を燃料)と同化(栄養素を材料として生合成)の作用がありますが、過剰な食べ物の摂取は栄養障害を起こし、肥満の原因となるのです。

 −−ヒトの身体の仕組みは進化していないのに、周りの文化や食生活が変わってしまったから病気にかかり易くなったということですね。

 前畑 糖尿病はその典型です。臓器に合併症を起こす、始末の悪い全身病です。

 −−今後、患者数はますます増えていくとお考えですか。

 前畑 確実に増えていくでしょうね。そのスピードを少しでも抑えるには、日本人は食生活を変えない限りダメだと思います。従ってホメオスターシス維持を可能としたバランスのとれた食事が必要となります。キーワードは野菜と魚と運動です。現在のまま西洋的な食事で、油っぽい、コレステロールの高い食事ばかりをしていると病気は避けられません。

 鰯、鯖などの青魚に含まれる脂肪は不飽和脂肪酸といい、コレステロールの胆汁への排出を促進して、血中コレステロールを下げる働きをします。逆に若者が大好きなハンバーガーは、肝臓でコレステロールの合成を促進して、血中コレステロール値を上げる飽和脂肪酸の固まりが多いので、これは動脈硬化の誘因になるのです。油っぽいものばかり食べていると当然太ります。肥満になると体脂肪調整ホルモン(レプチンが作用)の働きが非常に悪くなるので、糖尿病は肥満と密接に関係していることも覚えておくとよいでしょう。

 −−一度なってしまうと完治はしないのですか。

 前畑 良くなることはありません。しかし進行をそこで止めることはできます。遺伝的な要因もありますが、やはり食生活をはじめ、それまでの生活習慣そのものを変える必要があります。

 −−糖尿病に男女差はありますか。

 前畑 あります。元々男性の使命と女性の使命は違います。やはり女性は、子どもを産み、育てるという使命がありますので、男性よりは脂肪を溜め込みやすくなっています。ですから糖尿病の患者さんは圧倒的に男性の方が多くみられます。

 「正論」平成15年9月号   インタビュー



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