お元気ですか。
先日、初めて念願のエジプトへ行ってきました。これで黄河文明、インダス文明、エジプト文明の一端にほんのちょっぴりタッチしたことになり、四大文明のうち残すはメソポタミア文明のみ。いつの日かイラク、イランを訪れてメソポタミア文明の片鱗にもふれたいと少年の無邪気さで夢見ています。
エジプト文明がナイル河の賜物なら、メソポタミア文明は小麦によってつくられたといってよいでしょう。エジプトでもあれほどビールがうまかったのだから、バグダッドのビールもさぞやいけるにちがいない。かの地がアルコールにきびしいイスラム文化圏であることを知っていながら、ついのど越しのいいビールを想像してしまいます。食べ物だって、まずいはずがありません。
中東といっても私のほうは仕事を離れたプライベート旅行でしたが、バグダッドの特派員は文字通り命がけの日々が続きます。エジプトも政府機関のあるところは警察官だらけでしたし、地方の空港などの警戒はとても厳しいものでした。とはいえ、イラクとは比較になりません。いま世界で最も危険な国から帰った産経新聞外信部の松尾理也記者が本誌三月号に「現地ルポ・イラク復興の内実」を軽妙な文章でつづっています。のびのびと書きながら現地の緊迫感、地元の人々の感情が生々しく伝わってきます。さすがベテラン特派員。文章力を高めたいと
思っている方はぜひ一読して参考にして下さい。
サマワをふくめてイラクに安心ムードの漂うところなどどこにもありません。自衛隊員の無事はもちろん、各社特派員の安全も祈っています。ホテルにいても、いつ自爆テロリストの自動車爆弾が突っ込んでくるか、予測のつかない物騒なところです。それぞれが自衛するしかありません。たとえば松尾記者はヨルダンのアンマンから産経新聞中東支局長、カメラマンとともに支局長が用意した防弾仕様のベンツでバグダッドへ入りました。このベンツはヨルダンの王室関係の警備で使用されていたもので窓ガラスの厚さが五センチだったとか。こういう調達法も外国特派員の大切なワザの一つです。
このルポで松尾記者はバグダッドのレストランについて書いています。街の「一部のレストランはうっとりするくらいおいしい」が、泊まっていたホテルのレストランは「どうしたらこれほどまずくできるのかと感心するほどまず」かったというのです。だったら街のレストランで食事すればいいのに、と思うでしょうが、それは安全地帯にいる人たちの発想です。
第一線の取材記者やカメラマンは、ここ一番の勝負どころでは率先して現場に飛び込んでいきます。しかし、そうでないときはとても慎重です。バグダッドのようなところでは極力外出を控える。そのためにはおいしいレストランも我慢しなければならないのです。
一流のカーレーサーは自家用車で街を走るとき、信じがたいほど慎重に運転すると、同乗したことのある人が語っていました。危険地帯で取材する記者も報道人としての使命感、功名心などに駆り立てられる場面も出てくるでしょうが、つねに自制し、安全の確認が求められます。そういう記者の立場を思いながら、現地報道に接していきたいものです。
「正論」編集長 大島信三
| 「正論」平成16年3月号 |
編集長メッセージ
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