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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>



=6月号=

 イラク人質事件は発生からの数日間が最も緊張した。楽屋裏は大変だったようだが、首相官邸は一応の冷静さを保って難局を乗り切った。一部メディアがヒステリックであったので、よけいに落ち着き払っているように見えた。結局、手持ちの情報量の差だろう。情報は錯綜したが、人質殺害はなんとか避けられそうだという読みが早い段階からあったにちがいない。

 第一報のビデオに犯人の冷酷さがさほど感じられなかった。拘束された三人にあまり恐怖感がなかったので、これは助かる、と直感した。武器を手にした覆面の連中が運動靴をはいていた。運動靴のテロリストはいくらでもいるが、あの場面では幼稚な犯人像という印象を与えた。ナイフなど持ち出してコワモテの工夫はしていたが、わが国の当局はやらせをすぐに見抜いた。

 こういう事件が生じたとき、政府もメディアもまず考えるのは最悪の事態である。小泉首相がぶれずに毅然とした態度を保ったのも、国をあげての情報力に負うところが大きかったはずだ。

 気の毒だったのは、ビデオに仰天して気が動転した朝日社説である。最終期限の四月十一日付は「何もできずに時間が過ぎていくのがもどかしい」と悲痛な書き出しであった。そして、あろうことか、小泉首相に明日に予定されているチェイニー米副大統領との会談を今日に早め、米国の自制と政策転換を求めるべきだと迫った。そうすれば人質解放につながるというのだが、これではまるで犯人の代弁である。  キューバ危機のとき、ケネディ大統領は公表されていた日程を変えず、つとめて平静を装った。動揺ぶりをソ連に見透かされたくなかったからだ。朝日社説に従っていたら、小泉首相は世界のもの笑いになっていたであろう。(大島)


 「正論」平成16年6月号   編集室で



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