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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>



6月号


 ☆編集者へ=稲城市の匿名希望さん(元懲役・56歳)から。

 五月号、北海道N氏の投稿について「反省がない」と感じ、私の意見を述べます。

 結論は受刑者がすべて悪い。

 考えてもみてください。逮捕者全体の刑務所に送られる割合を。大半の犯罪者は逮捕されても初めてなら説諭か起訴猶予。再三再四捕まってようやく起訴、罰金、執行猶予、保護観察付き執行猶予……。そして実刑。このように日本の刑事罰は寛大です。

 私も初めて刑務所に収容されたのは、数えて二十回目の逮捕でした。

 だからA級刑務所(初犯)といえど、逮捕歴は豊富です。

 B級刑務所ともなれば「太郎」といって十回以上も出入りを繰り返すものが少なくありません。「全員ワル」です。

 刑務所とはワルを改心させ、罪を償う場所です。決して「闘争の場」ではありません。なかには闘争の場と勘違いして、些細なことで誰構わず食ってかかる輩も多いのです。そういうものが刑務官に「虐待?」されるのです。同じチョーエキはそれを聞いても誰も同情しません。「ついにやられたか」です。

 同情するのは「人権派マスコミ」だけで、これはそれを闘争の具にしているにすぎません。

「収容者遵守規定」があります。第一に「逃亡してはならない」、第二「自殺をしてはならない」。以下長々と所内の法律があります。

 百年を超える刑務官の経験から「チョーエキは気を許すと間違いなく反則する」という思想がありますが、これは正解です。

 些細なことを見逃すとチョーエキはつけあがるのです。

 その結果、所内の治安は荒れ、イジメ、怠業、詐病、喫煙……。畢竟、暴動、逃亡などにつながります。規則遵守は刑務所の命なのです。

 規則を厳しくすることは、弱いチョーエキには大歓迎です。刑務所内にも弱者がいて、厳しい規則は弱者を守っているという側面もあります。

 不満を言うのはほとんど反省のない「どうにもならない」太郎です。

 ☆編集者から=体験された方の意見にはやはり説得力がありますね。それにしても本誌読者の層の多様さには感心します。逮捕歴二十回以上の人もいるのですから。貴重な証言でした。

 刑務官という人からメールが届きました。残念ながら住所、氏名が明記されていません。前の匿名希望の方は編集者にきちんと身分を明かしています。住所、氏名を明かさない投稿は載せるべきではないのですが、今回だけはルールを破りたいと思います。以下は氏名不詳刑務官氏のコメントです。

 五月号の中田有二さんに刑務官から反論したいと思います。

 各施設によって違うかもしれませんが、普通工場に出て作業をする者の部屋にはテレビがあります。視聴できる時間や番組は団体生活ですから、制限されるのは当然ではないでしょうか?

 食事に関しては、私もたまに受刑者の食事を検食(味見)しますが、おいしいと思います。食費は一人一日当り約四百円ほどです(税金)。材料もちゃんとした業者から購入しています。

 医療に関しては、受刑者は無料で診察を受けられます。重病であれば、我々刑務官が病院へ連れていきます。そもそも医者が刑務所にいつかないのは、受刑者の「病気なりたがり病」のため、医者に対し薬をもらおうと脅迫したりするからです。いわば自分たち自身のせいです。彼等が舎房にいる間は我々処遇部門の職員が相手をするわけですが、彼等が病状を訴え、我々が医者の指示に従い薬をやらないと、彼等は「どうしてですか!? 誰の指示ですか!? 私は訴えますからね!!」と語気荒く言ってきます。薬代ももちろん税金です。

 入浴に関しては確かに書いてあるとおりですが、何百人という人間を風呂に入れなければならないのですから、当然ではないでしょうか?

 水道代、電気代はもちろん税金です。

 受刑者同士の会話は全て禁止されているわけではありません。作業中は事故や喧嘩の防止のため、会話は禁止です。休憩時間や余暇時間はいくら会話をしても何も言いません。

 そもそも何故自由が制限されるのかというと、刑務所の中を安全に過ごせるようにするためです。安全だから我々刑務官は丸腰なのです。よく欧米の刑務所は自由があるといわれていますが、それは刑務官が銃や警棒で武装しているからです。何かあれば、射殺されるのとみなさんはどちらが良いですか?

 我々刑務官も人間ですから、様々な人間がいます。自分勝手な思い込みで我々を判断するのはやめて欲しいです。

 そもそも、刑務所に入って、更生できない、というのは「甘え」ではないでしょうか? 自分自身の意思の弱さを他者のせいにしているだけのように思います。自分の意思の弱さで罪を犯したのではないでしょうか? 文句を言うくらいなら犯罪をしないほうが良いと思いますが。

「テレビ報道では、監獄の中は絶対に正しく伝えられません」とありますが、私もそう思います。受刑者(未決拘禁者も含む)が塀の中で自分勝手なことを言ったり、したりしているかを絶対に報道することはありません(もちろん大部分の者が真面目に服役していますが)。

 最後にみなさんにお聞きしたいのですが、監獄の中の待遇・設備を良くするために消費税を一〇%にすると言われたら、みなさんは賛成しますか?

 なるほど。刑務官氏の言い分、よくわかりました。どうですか、もう少し刑務所論争を続けませんか。

 ☆編集者へ=観音寺市の泉宮達郎さん(会社員・44歳)から。

 久しぶりの投稿です。べつに長い冬眠生活を送っていたわけでは、ありません。

 毎月『正論』は、読んでいました。高松で開かれる「日本会議」や「日本政策研究センター」主催の講演会などにも必ず出席していました。三月には、香川県で初めての拉致問題県民集会にも参加してきました。

 しかし私にとって一番の出来事は、やっとの思いでと言うべきか、この二月に再就職ができたことです。編集者の方から言われていたように、妻にチョコレートはまだプレゼントしていませんけど。

 この一年以上、ハローワークや職業斡旋業者の紹介で面接を受けた会社は、二十五社以上。

 なかには、門前払いや就職したもののどうしても自分に合わず辞めた会社もありました。今ようやく前職と同じような内容の仕事を得て、喜び勇んで毎日出勤しています。

 もちろん給料などはガタ減りですが、仕事があるという喜びの方が勝っています。

 一年以上もの間一言の文句も言わず、精神的に支えてくれた妻と、たまに軽く一言「おとうさん、がんばってな」とだけ言ってくれた息子には感謝しています。

 飯も煙草も酒もうまい(酒はともかく煙草はやめたいのですが)。何とかするという強い気持ちと、何ともならないのではないかという弱い気持ちの中で揺れ動いていた自分を思い出すと本当に苦しい一年だったなあと感じます。

 四月一日は、エープリルフール。

 帰宅するなり「明日からまた無職じゃ。会社辞めた」と叫んだら息子が、ものすごく心配顔で近づいて来るのです。「嘘に決まっとるやろ。今日は四月一日じゃ」と言うと、「今までが、今までやったからなあ。おとうさんならやりかねんと思った」と言われました。

 当分、心配はかけませんから。

 ☆編集者から=よかったですね。嬉しいですね。奥さんとお子さんのおかげです。いくらエープリルフールでも、そんな冗談をいっちゃいけません。新しい職場で一生懸命仕事をして、会社にとってなくてはならない人になって下さい。それが愛する妻子への最大のプレゼントになるでしょう。

 ☆編集者へ=仙台市の今野徹さん(会社員・34歳)から。

 東京・銀座一丁目にある出版社はガラス張りの洒落たビルである。

 最上階にある会議室の一室で、拙著の編集打ち合わせは続いていた。午後の優しい陽射しが、広いテーブルの上に雑然とする書類を輝かせていた。

 私は、次々出てくる編集長や編集プロダクション社の女性編集者の注文を聞いていた。

 その乾燥した声を聞きながら、自身の人生の激しい流転の日々に想いを巡らしていた。十数年前、大きな夢を抱いて上野駅に降り立った日。失意の中、故郷に敗走した日。そして、やっとありついた深夜専属の契約ライン工員の仕事…(あの夜、私は、すべての夢を捨てるために場末のライン工員となったはずだった…)。

「どうか、なさいましたか」

 女性編集者の綺麗な声で、現実に呼び戻される。

「いや、ちょっと疲れているようです」

 私は、我に返り、応える。

「困りますわねぇ。大切な時期ですから」

「そうですよ。先生。これからがヤマですから」

 綺麗な声に編集長も事務的な声を重ねる。私は、思わず苦笑していた。

 二時間ほどの打ち合わせの後、二人の見送りで、ビルを出る。

 銀座のオフィス街に早春の心地よい風が、流れる。ビルの隙間から射す、午後の強い陽射しが美しかった。ゆるやかな心で、華やかな銀座の街並みを見ながら思った。

 あの夜、私は、夢を捨てるためにライン工員になったわけではなく、夢を追うがためにライン工員になったに違いない。だからこそ、今、銀座にいる。

 ☆編集者から=銀座一丁目にある出版社というのは実業之日本社のことです。今野さんは四月にここから『60分でわかる会社の数字』という本を刊行しました。本誌の長年の読者ならしばしば「指定席」に登場した今野さんをご存じでしょう。

 逆境の中からみごとに立ち直り、「先生」と呼ばれるまでになった今野さん、あの頃のことを忘れずにひたむきな姿勢でがんばってください。

 「正論」平成16年6月号   編集者へ・編集者から



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