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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>



8月号



小さき殺人者の残した衝撃

詩人・柊 八尋(東京都世田谷区・26歳)

 佐世保で起こった小学六年生女児による殺人事件は、我々を混乱と衝撃に陥らせている。快楽殺人などの特異な殺人の類いではなく、明確な殺意が小学生に芽生え、実行にまで及んでしまったという事実。しかし強固な殺意の割には、漏れ伝えられる殺人の動機は、動機と呼ぶにはあまりにも幼いという印象をぬぐいさることはできない。そして殺人の態様も、社会を慄然とさせるような残虐性や思想性があるわけでもなく、これもまた幼い計画性が認められるだけである。

 この事件は、幼き少女が幼き理由で幼き命を奪ったという、どの面をとっても幼さが残る、しかしそれゆえにどこからこの衝撃を受け止めればよいのか途方にくれてしまうほどの「幼き」事件なのだ。幼い喧嘩の延長線上には本来現れるはずのない「死」が現れたために、我々は混乱し、衝撃を受けたのだ。

 批判を覚悟で書くが、この事件のあらましが伝えられたとき、我々はこの小さき殺人者に対し「素直に」憤りを覚えることができただろうか? 凄惨な事件に畏怖するように、不条理な殺人に嘆くように、あるいは未成年者の不可解な殺人に戸惑うように、我々はこの事件やこの小さき殺人者に対してなにがしかの感慨、或いは憤りの類いの感情を抱くことができただろうか? 恐らくはできまい。わたしは、何を思うよりもまず、途方にくれる以外なかった。なぜなら、この事件に対しての一般社会の倫理観を持ち出して憤ろうとしても、それにしてはあまりにも、すべてが幼すぎたからだ。

「死」という重い命題に臨もうとするには、この小さき殺人者の態度と覚悟はあまりにも幼すぎる。この種の幼さは、一抹の嫌悪感や同情も寄せ付けない。あるのはただ「たましいの幼さ」のみである。誤解を恐れずに言えば、無知の幼さである。だからこそ、我々はとまどい、困惑し、この小さき殺人者に対する「怒り」を率直に持てないでいるのだ。そして付け加えるならば、我々のこの困惑や衝撃の裏側には、この小さき殺人者のぞんざいな「死」の扱いに対する我々の倫理的衝撃があるように思えてならない。

 この事件は、「生命」或いは「他人の生命」について、我々の今までの一般社会通念で押し通すことのできないところにまで来てしまったことを表しているような気がする。いま一度、生命倫理と死を根本から捉えなおし、構築しなおさなければならないのではないか。

拉致家族の気持ち分かっているのか

元会社員・中島哲也 (東京都杉並区・69歳)

 この度のシーアイランドサミットで、小泉首相は北朝鮮の拉致問題の解決に向け参加国の支持を取り付けられた。このことが議長総括に明記されたことは、評価に値する。

 今年になって首相の二度目の訪朝で、蓮池さん、地村さんの子供たち五人が帰国できた時、家族会からはお礼の言葉と非難の声が飛び交ったが、これは実に自然な反応であると私は感じた。昭和五十二年以来四半世紀の間、日本政府、外務省はこの問題を見過ごし続けてきた。従ってその間、政治家も官僚もマスコミも国民も、実態や経緯、また拉致家族の心中はもちろん、ほとんど知らぬ存ぜぬで過ごしていたわけである。一昨年、小泉首相が訪朝し金正日が拉致を認めてやっと日本中が騒がしくなった。

 しかしこの件で家族会が政府の対応に対し批判的な声を上げると、時の官房長官から国民の中にも「家族の方の気持ちはよく分かりますが」とか、「皆さんがご苦労されているのはよく分かりますが」などと自分がどの程度分かっているのかは棚上げして、家族の声を否定する。これは養老孟司氏の「わかるの壁」で、人間には分からないことがあり分かったつもりになっているだけ、に相当する人たちだと思う。

 拉致問題の解決は、核やミサイルと違って日朝間の問題だから、日本政府が主体的に取り組まねばならない。すると平成十四年に交わした平壌宣言の四項目には今後の再発防止は唱えられても、今までの拉致疑惑問題の解決には一言も触れていないことが気懸かりである。

もう逃げるなジェンキンス元軍曹

無職・前瀧三千雄 (千葉県大原町・77歳)

 軍隊から脱走、逃亡は最も卑怯な行為です。もしこのような行為が不問に付されるならば、この軍隊の軍紀は弛緩、士気も低下し烏合の衆となるでしょう。

 日本政府が米国政府に追訴の免除を嘆願しても精強な米陸海空軍を維持するために受諾できないのです。この現実の対処法は当人が米陸軍に自首し、軍事裁判の判決を受け刑期を務めるしかありません。その後、日本政府と国民、ジェンキンス一族が刑期の短縮や仮釈放の陳情をするのです。

 ジェンキンス元軍曹は前非を清算し、逃げの人生に終止符をうってこそ家族四人が幸福に暮らせるのです。わが国のマスコミはジェンキンス元軍曹を亡命者と称しソフトな印象を与えますが、米陸軍では卑怯な脱走兵です。

 曽我ひとみさんが家族と面会するとき「逃げの人生に家族の幸せはない」と夫に決断を促してください。

 私は少年時代から旧海軍、第二復員省、掃海隊、海上自衛隊と信賞必罰の世界を歩き、現在は房総半島の東海岸で蟄居しております。

 現今、曽我ひとみさんとジ元軍曹の論調は情緒に流され、厳しい軍紀の現実を理解しておりません。このことから一言を綴りました。

 「正論」平成16年8月号   論文



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