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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>




もう一つのNHKウオッチング
海老沢会長、ちょっと考えが甘いですゾ(1)

産経新聞文化部 鵜野光博


 七月二十三日、NHKの海老沢勝二会長はチーフ・プロデューサーの多額着服が明るみに出た問題で記者会見し、国民に陳謝した。しかし、その後も編成局幹部によるカラ出張、ソウル支局での数千万円に及ぶ水増し請求など職員の不祥事が次々と発覚し、日本の公共放送は前例のないスキャンダル・ラッシュの渦中にある。

 この原稿を書いているのは八月中旬だが、NHKは八月末をめどに国内外の総支局の経理などを総点検し、その結果と不正の再発防止策をまとめ、発表する予定でいる。NHKの業務計画と予算を承認している国会は、一連の不祥事をめぐって九月九日に海老沢会長と関根昭義放送総局長を参考人として呼ぶことを予定しており、この日までに問題の幕引きをすることはNHKにとって至上命題となっている。

 NHKはこの問題でチーフ・プロデューサーを懲戒免職処分として刑事告訴し、幹部についても海老沢会長=減給三十%三カ月▽関根昭義放送総局長=減給二十%三カ月▽上司の天海修一・芸能番組センター長=停職六カ月、センター長解任−などの処分を行った。会長が減給処分されるのは平成五年の「NHKスペシャル 奥ヒマラヤ 禁断の王国・ムスタン」のやらせ問題発覚以来で、番組上の問題で幹部が国会に呼ばれるのは平成十四年の「NHKスペシャル奇跡の詩人〜11歳脳障害児のメッセージ〜」で民間療法を無批判に紹介したのが問題化して以来のこと。不正支出金額が調査途中の七月下旬時点でも四千八百万円と多額であれば、右の処分でも「軽すぎる」と感じた読者は多いのではないか。

 海老沢会長は、日本テレビのプロデューサーによる視聴率操作事件が社会を騒がせていた昨年十二月、定例会見で事件への感想を聞かれ、こう答えていた。

「うちは会計検査院の検査もあるし、監査法人にお願いしているし、現場の放送局には経理担当がいてチェックしている。経理局審査部のチェックもある。二重三重のチェック体制をとっているので、(日本テレビの事件のような)ペイバックはあり得ない」

 トップがこう断言していたことの責任は問われるべきだろう。

非公表を正当化するNHK

 着服は国民的番組「NHK紅白歌合戦」でも行われていた。かつてこの番組は不祥事を起こした歌手を出演させないことでも知られ、NHKが「世紀を超えた歌手」として繰り返し特集を組んでいる美空ひばりでさえ、弟と暴力団との交友が発覚してからしばらくは紅白に出場できなかった。出演者に高い倫理を求めていた番組で、チーフ・プロデューサーの着服が明るみに出た今年、NHKはどのような顔をして年末の紅白をPRするのだろう。

 しかし実際には何もなかったかのようにPRは行われるのかもしれない。着服発覚後に相次いで判明した不祥事について、NHKは「公表しなかった当時の判断は間違っていなかった」とする無理な説明を繰り返しているからである。

 八月中旬時点で発覚している不祥事を列挙しておく。

▽チーフ・プロデューサーが平成八−十三年に「NHK紅白歌合戦」「BSジュニアのど自慢」など複数の番組で、架空の「番組構成料」名目で計四千八百万円を知人のイベント会社社長に支払い、その半額近くを着服。本人は懲戒免職、刑事告訴され、海老沢会長ら幹部も減給処分。

▽編成局のエグゼクティブ・プロデューサーら二人が平成十−十二年にカラ出張で架空の経費請求を繰り返し、計約三百万円を不正に受け取っていた。不正は三年前に発覚し、二人は厳重注意処分を受けて地方局に配置転換させられたが、NHKは非公表。

▽岡山放送局の元放送部長が架空の飲食費を請求し、計約九十万円を着服。懲戒免職となったが、非公表。

▽ソウル支局長が平成五−九年の前回赴任中、番組制作プロダクションへの支払い分に月に六十万−二百十万円を上乗せする不正な経費処理を行っていた。四年間の総額は少なくとも数千万円。九年秋に発覚し、報道局長が職員を厳重注意したが、「全額を取材に使っていた」として特別な処分は行われず、今年六月に同じポストに復帰。非公表。

▽甲府放送局で十四年三月から一年間、パソコンや図書カード、職員の私物ビデオカメラなどが持ち出され、一部がインターネットのオークションで売買。犯人は職員と見られたが本人は否定し、後に依願退職。同放送局は事件を放置し、マスコミの取材を受けて八月十一日に盗難届を警察に提出、当時の放送局長と放送部長が口頭で厳重注意処分。

 チーフ・プロデューサーの着服の一件は、「週刊文春」に載った後任者の内部告発から発覚。告発者は「上司に報告したが、『発覚すれば紅白がつぶれる』としてうやむやにされた」と指摘している。しかしNHKは「上司は番組の赤字解消のため不正な支払いを止めたが、着服には気づかず、それ以上の調査をしなかった」と説明、組織的隠蔽は否定している。

「公表の基準はケース・バイ・ケース」(広報局)で、カラ出張とソウル支局長の件については「全額を仕事に使っていた」(同)ことが公表しなかった主な理由としている。また数千万円の不正経理を行った職員を元のポストに戻したことについても、「優秀な職員を適所に配置したということ」(同)としている。→つづく

 「正論」平成16年10月号 論文





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