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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>



今月のメッセージ(第97回)(平成16年10月1日)



お元気ですか。

 九月二十五日の午前、中国の北京国際空港に突然、意外な人物が現れました。そう、北朝鮮の独裁者、金正日(キム・ジョンイル)総書記の長男とそっくりな三十代の小太りの男性です。ご存じのように北の御曹司の名前は金正男(キム・ジョンナム)。彼は一九七一年生まれの三十三歳です。平成十三年(二〇〇一年)五月、田中真紀子外相のときでしたが、偽造旅券で入国しディズニーランドなどで遊んでいたのがばれて、すっかり日本人におなじみになった人物ですね。

 三年前の国外退去となった際の写真と今回北京で撮られたものを見比べてみますと、まず本人にまちがいないと思われます。どこかのテレビ局も指摘していましたが、顔のホクロの数といい位置といい、ぴったしです。この男性自身、「キム・ジョンナムさんですか」という日本人報道陣の質問に「そうです」と朝鮮語で答えています。

 産経新聞(九月二十六日付朝刊)によりますと、彼は白いシャツにサングラス姿。金色のネックレスを首にかけ、高級ブランドのセカンドバッグを抱えていたそうです。写真を見ても、いかにも裕福な遊び人といった感じです。

 それにしても、なぜ選りによって九月二十五日の午前着の便で北京へやってきたのか。このへんはちょっとしたミステリーですね。

 この日、日本人記者団が北京空港に詰めかけていました。北京市内のホテルでひらかれる第二回日朝実務者協議に出席するため平壌から飛んでくる北朝鮮代表の宋日昊(ソン・イルホ)外務省第四局副局長を待ち受けていたのです。あの、いつも苦みばしったような顔つきの人ですね。タフネゴシエーター、手ごわい交渉相手のようですよ。日本側の代表である外務省の斎木昭隆アジア大洋州審議官の苦労がわかります。

 それはともかく、金正男はモスクワ発の便でやってきたようです。平壌からではないことは本人も認めています。金正男は宋日昊代表団の日朝実務者協議のための訪中、そして北京到着の日時を知っていたのでしょうか。日朝実務者協議は北朝鮮の権力層では最大の関心事の一つです。その日程を金正男が知らなかったとすれば、彼には重要な情報が何も届いていないことになります。

 それに北京空港に金正男を迎える人がだれもいなかったこと、タクシーでホテルに向かったことも気になります。金正男が金正日の後継者なら単独行動も、出迎えなしも、タクシー乗車もあり得ない。北京駐在の北朝鮮大使館が放っておくはずがありません。

 金正男は三年前、不法入国事件で父親の怒りをかい、それ以来、モスクワや香港、マカオなどを転々とする生活をすごしていると伝えられていました。あるいはIT事業に携わっているという情報もあります。案外、これが当たっているのかもしれません。もともと政治の世界は性に合わず、実業家として生きようとしているのでしょうか。北朝鮮はこのところIT方面が急速に発展しているという情報もあります。そういえば、江沢民の息子さんも政界、官界ではなくITで活躍しています。

 そうしますと、後継者は金正男の継母になる高英姫(コ・ヨンヒ)夫人の二人の息子、次男の正哲(ジョンチョル、八一年生まれ)、三男の正雲(ジョンウン、八三年生まれ)のどちらかになるのでしょうか。高英姫夫人は在日出身ですが、すでに死亡した可能性が高いといわれています。それより権力をやすやすと世襲できるかどうか。いずれにしても金王朝は一寸先が闇といえましょう。

「正論」編集長 大島信三

 「正論」平成16年11月号 編集長メッセージ



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