
「憲法問題を解く」提言の葛西委員会主査からメッセージ
「憲法問題」を戦後政治の流れの中で解き明かす。「解法」への批判、反論を大歓迎
東京大学先端科学技術研究センター教授 御厨 貴
「憲法問題」をどう読み解くかについて、(社)日本経済調査協議会の葛西委員会において、この二年間、議論を重ねてきました。財界の政策提言団体としては老舗の部類に属するこの団体でも、政治的イシューを扱うのはタブーとされる時代が長く続いたようです。しかし小泉内閣になって情勢は急速に変化し、むしろ「憲法問題」について真正面から議論すべしとの声が過半を占めるに至りました。
そこで、財界人、企業人、マスコミ、有識者、大学人等、二十余名の方に参加して頂き二〇〇二年九月から検討を始めました。毎月一回の割合で開かれた委員会では、原則として憲法の専門家ではない、しかし憲法問題に関心と知識と意見を有すると思われる方々に話題提供をお願いしました。その理由は、次のようにあげることができます。
何よりも、この委員会のテーマはあくまでも「憲法問題」であって、「憲法」そのものではなかったことです。すなわち「憲法」そのものの詳細かつ網羅的な検討を意図したのではなく、「憲法問題」を歴史的に考察することに焦点をあわせたからに他なりません。「憲法」を周辺の政治・経済・社会事情から切り離し、ある種のドグマの上に立って議論することにはまったく意味がありません。これまでそのような形でくり返されてきた「憲法」論議とは異なる地平で、より生産的な議論への道筋を示すことにこそ、この委員会の存在理由を求めたと言えましょう。
こうして幅広く多様な視野から憲法をとりまく環境に目をむけ、誰もが自由に「憲法問題」を話題にしうるような雰囲気を、まずは委員会の中にかもし出すよう工夫しました。毎回の委員会では、ゲストのメリハリのある講演をもとに、討議の場では臆することなく伸びやかな発言が次から次へと続いたのが印象的です。委員会メンバーと、ゲスト講演者に興味のおありの方は、是非「憲法問題を解く」と題する報告書に直接あたって頂きたいと思います。
さて予定されていた一年半の検討期間は、あっという間に過ぎ去り、いよいよ報告書作成の段階に入りました。参加者にとっては、毎回の議論の応酬は楽しいが、それをある形に沿ってまとめて文章にするのは大変というのが正直に言ってホンネでありましょう。そこで葛西委員長と学者委員(飯尾潤、久保文明、玉井克哉、松原隆一郎)との間で、事務局もまじえて、数回にわたり論点の整理が行われました。
そして最後に残されたのは、報告書の書きぶりをいかにするかということでした。実はこれこそが、言うは易く行うは難しの最難問でありました。この手の報告書の執筆に際しては、まずもって「襟(えり)を正して格調高く」という姿勢で臨むのが当然のあり方と思われます。しかしそれは同時に多くの報告書がそうであるように、「読まれざる報告書」「飾っておくだけの報告書」と言った運命をたどることにもなりましょう。
それは何としても避けたいという気持ちがありました。政策提言である以上、仲間うちでの自己満足に終わることなく、できる限り多くの人々に読まれなければ意味がありませんから。そこで全体の体裁を「解法」「提言」「補論」「参考資料」に大別した上で、「解法」に全力を注いだ結果が、今回掲載されたものとなります。
お読み頂いてどのような感想をおもちになりましたでしょうか。ここには、こと細かな改正条項の検討や、哲学的で深遠な憲法論の展開はまったくありません。そのかわり、まず今日の時点で「憲法問題」を解いていく、骨太のロジック(論理)を考えました。そしてそれを一貫したストーリー(物語)として叙述しました。最終的には歴史的コンテキスト(文脈)の中に、きちんと位置づけることをめざしています。
言い換えますと、「憲法問題」を戦後政治の流れの中で解き明かすように試みています。同時にそのことを通じて、日本の立憲政が本来持っているダイナミズムを回復するプロセスを提示することになります。
ここに掲げたテーマは三つです。第一は9条問題と違憲立法審査権の不行使を焦点に、55年体制が機能不全に至るプロセスを述べています。続いて第二に内閣法制局の解釈の限界に関して、集団的自衛権の行使の問題を中心に考察し、内閣総理大臣のリーダーシップの発揮や、参議院の役割について検討しています。第三は国民主権の実質化のために、立憲政のダイナミズムを取り戻す一つの手段として、国民投票の問題に説き及びます。
以上の三つのテーマは相互に関連しており、いかにしたら国民は国家統治の実質に政治参加できるか、その道筋を示していると言ってもよいでしょう。国民はすべからく憲法に縛られたいわば「囚われの主権者」である状態から解き放たれ、それこそプロフェッショナル(専門家)によるこむずかしい議論に陥ることなく、賢明なアマチュアリズムを発揮することによって、憲法をそして国家を身近な存在にしていく必要があるのです。だから21世紀を迎えてこれからの日本を背負う次世代のわか者たちにも、是非応答してもらいたいと願っています。
いずれにせよこの「解法」もまた、おそらくは数ある中での一つの「解法」にすぎません。ですから批判、反論大歓迎です。そして意味のある「解法」が次から次へと生まれてゆくことを望みます。
なお私自身の広く最近の日本の政治社会に関する見解は、八月末刊行の『「保守」の終わり』(毎日新聞社)に示しておきました。あわせてお読み頂けると幸いに思います。
最後に、この報告書の入手先を書き記します。
(社)日本経済調査協議会
〒106−0047 東京都港区南麻布5の2の32 興和広尾ビル6F 電話(03)3442−9403
[編集者から]
御厨貴主査が文中で述べられていますように「憲法問題を解く」について皆様のご意見(感想、批判、反論、再提言など何でも結構です)を本誌編集部へお寄せ下さい。とても重要なテーマですが、提言にならってやさしい文章で書いてみませんか(八百字以内。年齢、職業を明記して下さい)。あて先は左記へ。
〒100−8077 東京都千代田区大手町1の7の2 産経新聞「正論」編集部「憲法問題を解く」係
【略歴】御厨貴氏 昭和二十六年(一九五一年)、東京で生まれる。東京大学法学部卒。東京都立大学教授、政策研究大学院教授を経て東大に。著書に『馬場恒吾の面目』『オーラルヒストリー』などがある。
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| 「正論」平成16年11月号 |
論文
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