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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>




3月号 (122)
俳優・元衆議院議員
森田健作


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父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ…

 親父は明治生まれ。警視庁の刑事だった。年中家を空けていたので、親父から日常的にあれこれ細かいことを言われた記憶はない。それは主におふくろの役割だった。生まれ育った東京・大田区はちょっとした工業地帯で、羽振りのいい会社の社長を父親に持つ同級生もいた。勉強部屋があって、家庭教師もつけてもらえて…それに比べて親父は安月給だった。

 中学生の頃、「家が貧乏なのは親父の稼ぎが悪いからだ」とおふくろに不満を漏らしたことがある。そのときのおふくろの言葉は忘れられない。「お父さんの給料は少ないかも知れないけど、お父さんが一所懸命働いてくれるからこそ、みんな安心して暮らせるんだよ。お給料が多い少ないよりも一所懸命働くことが大事なんだ。きっとおまえにも分かる日が来るよ」。これは深く胸の底に響いた。

 親父にも「少しは偉くなったらどうだい」と生意気な口をきいたことがある。「バカ野郎、刑事は泥棒を捕まえてみんなの役に立つんだ。(昇進)試験なんか受けていられるか。それより俺が泥棒を捕まえたら実はわが子だったなんて、それだけはやめろよ」と言い返された。これも子供心に効いた。人並みに悪戯はしたが、これ以上やってはいけないという一線だけは絶対に越えなかった。親父の言葉が自分に大きく影響していたのだろう。親父は職務に対しては不器用なまでに実直で、最後まで「金平糖一つ」だった。

 わが家には「教育勅語」が額装されてあった。明治人の気概、精神を受け継ぐ、などという大袈裟なものではなく、「父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ」が親父の眼目だった。古くさいと笑わば笑え、戦前のものはみんな間違っているなんて暴論もいいところ。団塊の世代に生まれ、戦後民主主義にどっぷり浸かりながら、私が進歩派に奔ることなく、日本人としての“素晴らしき青春像”にこだわって生きてこられたのは、多分にこの両親のもとで育ったおかげである。



「青春の巨匠」と呼ばれて

 昭和四十六年から一年間放送された「おれは男だ!」が大人気となり、四十四年に「夕月」でデビューした私は銀幕のスターから“お茶の間のスター”に転じた。その後もいくつもの青春学園ドラマに主演し、ブロマイドの売り上げが四年連続して一位という時代もあった。

 ところが二十七、八歳になってまで「青春だ」「青春だ」で通していたら、さすがに周囲からいろいろと批判されるようになった。いい歳をして何バカをやっているんだ…と。自分自身、演技に対する迷いも抱き、俳優として壁にぶつかっていた。たまたま田村正和さんのドラマを見たときだ。彼の大人の演技(ベッドシーンだったが)に「ああ、これは負けるな」と嘆息し、すっかり落ち込みかけた一方で、「待てよ。たしかにベッドシーンでは田村さんにかなわないけど、夕日に向かって走るシーンだったら俺は田村さんに勝つな」と思った。比較するような場面ではないかも知れないが、自分が「これだ!」と思うことで勝負するのが一番後悔しない生き方だろう。

 それからの私は、どんな番組をやるときでも、「この役の青春を描きたいんです」とよく言っていた。どんなに揶揄されても、バカにされても、言いたい奴には言わせておけばいい。私は自分がこれでいいと信じた道を貫き通そうと決めた。いいときもあれば悪いときもある。人の情を大切にし、耐えて、努力さえすれば、いずれ結果は出るだろうと言い聞かせた。面白いもので、そう言い続けて頑張っていたら、今度はいつの間にか「青春の巨匠」と呼ばれるようになっていた。「バカ」から「巨匠」になったのである。

 四十歳をすぎたとき、わが青春の熱血は政治に向かった。残りの人生を自分のことだけで過ごしていいのか。大時代と言われてもいい。世のため、人のため、国のため、何か自分にもできるはずだ。そう思ったのである。それこそが青春の志ではないかと。その思いは、政界を離れた今も変わってはいない。

 

◇ ◇ ◇

 もりた・けんさく=本名・鈴木栄治 昭和二十四年(一九四九年)東京都生まれ。昭和四十三年正則学院高校卒。四十五年明治学院大学入学、五十三年中退。四十六年「おれは男だ!」、その主題歌「さらば涙と言おう」が大ヒット。その後も映画「砂の器」、テレビ「大岡越前」をはじめ数多くの映画、テレビに出演。平成四年、東京選挙区から立候補、参議院議員に初当選。沖縄開発政務次官、文部政務次官を歴任。十年から十五年までは衆議院議員として活躍。著書に『批判するだけでは変わらない』(KKベストセラーズ)、『家庭力』(日本実業出版社)など。

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