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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>




話題の映画
『亡国のイージス』が問う日本の未来(1)

作家 福井晴敏
聞き手/本誌 永井優子

 日本の専守防衛の象徴ともいえるイージス艦を舞台にした軍事サスペンス映画、『亡国のイージス』が七月三十日に公開される。防衛庁、海上自衛隊、航空自衛隊の全面協力により、実物のイージス艦、戦闘機も登場する話題作だ。原作は平成十一年に出版された福井晴敏氏の同名ベストセラー。国家が危機に直面したとき、我々日本人はどう行動すべきか。重く大きなテーマだが、福井氏が問うているのは「国のかたち」より、むしろ一人ひとりの心のあり方のようだ。

「人間」として描かれた自衛隊

【東京湾沖で訓練航海中の海上自衛隊の最新鋭イージス艦「いそかぜ」が、副艦長の宮津弘隆二等海佐(寺尾聡)、某国対日工作員のヨンファ(中井貴一)らによって乗っ取られた。彼らは乗組員を強制的に退艦させ、わずか1リットルで東京を壊滅させることのできる特殊兵器を手に日本政府を脅迫。そんな中、先任伍長の仙石恒史(真田広之)が、「いそかぜ」を取り戻すべく、たった一人で艦に引き返す…】

 −−原作者からみて、映画の出来栄えは?

 福井 私も脚本づくりから全部、膝詰めで話し合って作ってきたので、正直言ってこれがいいか悪いかわからない。どちらかといえば、試写を見て、結果を確かめたというところですかね。

 −−現役の自衛官が反乱を起こすという話に、よく自衛隊の協力を得られましたね。

 福井 誰もが無理だと思っていたのですが、空気がどんどんそういう方向になってきたということでしょう。

 要因は二つあって、一つは9・11以降の情勢ですね。自衛隊をめぐる日本人の見方、いわゆる戦争というものに対する日本人の感じ方がだいぶ違ってきた。それまで、何を言っても自分たちは関係なくいられると思っていたのが、実はものすごく身近だったということに気付かされてしまったわけですから。

『亡国のイージス』は象徴的で、テポドンが上空を通過したときにこの話を思いついて、ちょうど不審船騒動があったころに本が出て、映画化が動き出したのは、偶然にも日朝交渉で小泉首相が初めて北朝鮮に行ったその日なんですよ。そういう中で、自衛隊自体の広報意識が変わったところがあると思うんです。

 まず、国民のほうが、例えばイラクへの自衛隊派遣について考えてみたら、自分たちは自衛隊のことを何にも知らない。言葉は聞くけれど、集団的自衛権とは、専守防衛とは何だ?というときに、自分の書いたような本は、考えるヒントにはなると思うんですよね。「丸分かり何とか国防」とかいう、そういうお勉強じゃなくて、あくまでお話のついでに何となく分かった気になれる。9・11以降、ものすごく売れるようになったのは、多分そういうことだと思います。

 自衛隊の方々も読んでくださっていて、これに協力することが、自分たちの広報になると分かってもらえたのだと思う。つまり、現役の自衛官が反乱して云々というところではなく、この話を見てもらえば、自分たちは何だ、っていうことが分かってもらえると感じたのではないか。

 もう一つの要因は、そういう機運が高まっているときに、トップの石破茂防衛庁長官(当時)をはじめ、たまたま人の配置がいい具合にいった。海上幕僚長、海幕広報室長、広報室の担当者、誰か一人でも欠けていたらうまくいかなかったと思います。

 −−いわゆる「軍事オタク」ではなかった福井さんが、自衛隊を舞台に選び、そもそも何を描こうとしたのですか。

 福井 日本になかった「スペクタクル・アクション」をやりたかった。たとえば警察を使うとなると、日本の警察ではスケールを出しようがないじゃないですか。どちらかというと、張り込みとか、松本清張の世界に行っちゃうわけで、どうやってもハリウッド映画の「ダイハード」にはならない。

 そうしたらあとは、でっかい火薬を持っている人たちは自衛隊だ。それで自衛隊のことを調べてみたら、「これは使えない。何しろ出動できない!」というところから、では逆に出動できないこと自体をドラマにできるだろうという発想の転換でできたのが『亡国のイージス』なんです。

 −−自衛隊に関する知識は、本だけで得たのですか。

 福井 そうです。特別なルートは何もなく、取材も不可能でした。ただ、あの話がリアルに見えるのは、兵器のスペックが詳細に書かれているからではない。あそこで働いている人たちって、日ごろどうしているんだろう。今までのお話で出てくる自衛隊の人は、どのシーンでも任務をしている。だけども、現実問題、船に乗って作戦に出発しても、その任務中ずっと緊張しているかといったら、そんなことはない。トイレにも行くし、ご飯も食べる。非番の時間は、漫画を読んだりバカ話しているわけじゃないですか。つまり、我々と同じ生活がある。そこを『亡国のイージス』は描いた。それがリアルに見える最大の秘密なんです。

 −−自衛隊であっても、全く知らない世界ではない?

 福井 自衛官といったって、生活の手段として入ったという人が大半だろうから、それが特別な人たちであろうはずがない。その人たちが暮らしているなりの、生活のすきまがあるだろうと考えたんです。現場の人たちが一番喜んでくれたのは、そこだった。初めてわれわれが、ちゃんと人間として描かれている、と。そんな普通の人たちが、国防という現場にぽんと置かれている。

 −−なかなか福井さんのように考えられる人はいないと思いますが。

 福井 そうですね。逆に、私くらいの世代から変わってくるのではと思う。以前は、学校教育の影響が大きかったし、「違憲の組織である」と国ぐるみ、学校ぐるみで教えられた日にはね、というところがある。だけど、それこそ二十歳前にはソ連も崩壊しているわけで、右も左もあったものではない。どちらの言うことも間違っているらしい、ということがとりあえず分かった。そうしたら、あとはどこに足場を置くかといったら、毎日生きているこの社会という漠然としたものしかないな、という。それは多分、これからどんどん変わってくるんじゃないかなと思います。

→つづく

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 【略歴】福井晴敏氏 昭和四十三年(一九六八年)、東京都生まれ。千葉商科大学中退。平成十年、『Twelve Y.O.』で第四十四回江戸川乱歩賞を受賞、小説家としてデビュー。十一年刊行の『亡国のイージス』で日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大薮春彦賞をトリプル受賞。十五年には『終戦のローレライ』で吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。他の作品に『川の深さは』『6ステイン』(以上、いずれも講談社)、『月に繭 地には果実』(幻冬舎、『ターンエーガンダム』改題)。今年は『亡国のイージス』『ローレライ』『戦国自衛隊 1549』の三作品が映画化された。

 「正論」平成17年8月号 論文





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