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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>



今月のメッセージ(第107回)(平成17年8月1日)



 お元気ですか。

 ネットの時代を感じます。この雑文メッセージでも世界をかけめぐり、ときには海外からの反応がストレートに届きます。すごい世の中になりました。とはいっても今日、書くことはとりとめのないことですのであしからず。

 八月といえば、夏。

 それが、どうしたの。そういわれれば、それまでですが、なぜかそう書きたくなりました。

 夏といえば、八月。

 前後をひっくりかえしただけじゃないの。そういわれれば、その通りですが、そういってみたいのです。

 アメリカの、どこぞの地方の居酒屋では、満月にはアルコール量をへらすそうです。満月が客人の気分を高揚させ、トラブルが発生しやすいからです。臨時増刊「昭和天皇と激動の時代・終戦編」の作業を終え、ほっとして満月の夜の気分になってしまったようです。

 冷たいコーヒーを一杯のんで、気持ちを引き締めましょう。

  コーヒーは嫌いじゃありません。オフィスに出勤しますと、まず百円玉を握り締めて自動販売機のあるところへ出かけます。

 あいにく今日はワンコインがありません。でも、十円玉がある。このところ十円玉がかぎりなくふえていきます。たまりすぎた十円玉を処分するため、ポケットが重くなるのも厭わず、じゃらじゃらとつめこみ、自動販売機の前に立ちました。一枚、また一枚と静かにコインを押し込んでいきます。

 そういえば、最近はどうして一円玉が以前のようにふえないのだろうか。それと十円玉の激増には、なにか相関関係があるのでしょうか。

 終戦直後、たまご一個が十円だったそうです。いまでも、一個二十円もしないそうですね。たまごのような需要の多いものが、ちっとも値上がりしない奇跡の価格をどうして維持してきたのでしょうか。

 運のわるいことに、たくさんあると思っていた十円玉が九枚しかないのです。この自動販売機には七十円、八十円、九十円の飲み物もあります。しかし、毎日、百円の同じ銘柄でないと落ち着かない。

 仕方なく、せっかくいれた十円玉をじゃらじゃらとまた戻し、前のようにポケットを重くし、千円札をいれなおしました。じゃらじゃらと十円玉より威勢良く出てきた百円玉九個のあらたな重みに気分も重くなります。これでは胃によくありません。

 そもそもコーヒーは胃のクスリでした。バグダッドといえば、現在のイラクの首都ですが、千年ほど前、そこに住む医学者がパンの木の種を煮出しして、それが胃に効くといいました。それをきっかけにしてコーヒーはまずイスラム圏で広まりました。

 イスラム教のお坊さんたちはコーヒーをのんで睡魔と闘い、修行につとめたといいます。酒がご法度のところでは、コーヒーがアルコールの役割も果たしていたのでしょう。中世のエジプトでは一時期、コーヒーが禁じられました。刺激が強すぎるというのが、その理由でした。

 コーヒーのせいでしょうか、ようやく一つの命題がひらめきました。

「春夏秋冬のなかで、夏イコール八月というのが、最も一体性を有している」これが、一体、ひらめきというものか、と笑わないで下さい。まだ、だれも指摘したことのない命題ですよね。

それではお尋ねしますが、春を代表する月はなにかご存じですか。三月ですか、四月ですか、それとも五月ですか。だれも話題にしていないので、正解などありません。

 秋もむつかしいですね。九月が本命かといえば、そうとはかぎらない。十月を推す声も多いと思いますし、十一月の晩秋だってミレーの絵のように風情があって捨てがたい。

 冬の場合は、ちょっと見当もつきません。

 その点、夏は真夏にかぎり、真夏は八月にかぎります。真夏の九月とはいわないでしょう。真夏のような九月。

 高校野球、広島の日、長崎の日、終戦記念日。靖国。帰省、混雑、老いた両親、スイカ、同級生、初恋、新品のげた、蜂に刺された子、墓参り、太陽、寂寥、蝉の声、あけび、小遣い。路傍の石。ホタル。室生犀星。

 問題山積のホットな夏になんとたわごとを、とお叱りは承知しています。でも、熱くなってはいけないと自重し、とりとめのないことでお茶をにごしました。

「正論」編集長 大島信三

 「正論」平成17年9月号 編集長メッセージ



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