
台湾独立の行方を占う国連加盟問題(1)
本誌 小島新一
国連加盟という戦略
今年六月末から七月初めにかけ、台湾の国連加盟問題を取材するため同国を訪ねた。
中国による「反国家分裂法」の制定、野党党首二人の相次ぐ中国訪問と、今年に入って中国との関係が大きく揺れ動く台湾。「独立」の意味合いが鮮明な新憲法制定あるいは憲法改正、「『中華民国』か『台湾共和国』か」という国号問題ほど日本では関心を集めていないものの、国連加盟問題もこの国の行方を占う大きな政治課題の一つである。
台湾の国連加盟の動きは、一九九二年(平成四年)から始まった。一九八八年に急死した国民党・蒋経国総統の跡を継いだ李登輝前総統政権下で憲法が改正され《中国共産党との内戦状態》にピリオドが打たれた翌年であり、刑法改正で台湾独立を主張する言論が自由化された年でもある。
この年は、国連総務委員会で九カ国の演説が行われただけだったが、翌九三年からは毎年、台湾の代表権問題を本会議で扱うよう求める提案や演説が台湾の働きかけを受けた友好加盟国からなされている。総務委員会での討議時間は当初は一時間に満たなかったが、討論時間は年を経るごとに増えて昨年は約四時間が台湾問題に費やされている。中国の意を受けて反対する国も増えて提案は否決され続けているが、関心自体は高まっているようである。加盟活動開始当初はすべて「中華民国」とされていた国名も、昨年、台湾を支持した十五カ国のメモランダムでは、冒頭の一文に国名を「中華民国(台湾)」と記し、そのあとはすべて「台湾」で統一されるなど、台中両国間の区別も明確になってきている。
国立政治大学で国際関係論を研究している李明峻・助理研究員は、台湾にとっての国連加盟の意味を次のように説明してくれた。李研究員は京都大学に留学経験があり、日本語も流暢だ。
「日本でも『正常な国』『普通の国家』かどうかという議論がありますが(笑い)、この『正常国家』論が本当になされるべきは台湾なのです。台湾は実質的には主権国家ですが、独立を宣言することができないという不正常な状態にあります。もしも現状で独立を宣言すれば、中国との間で戦争になり、台湾だけではなく東アジア全体が戦火に包まれかねません。そこで、国連加盟を実現させることによって、独立を宣言しないままで独立国家としての国際法上の地位を得ようという戦略なのです」
この国家戦略のもとで、台湾は官民挙げて国連加入を目指す体制をとっている。民間レベルで国連加盟運動を行っているのは、「財団法人・台湾新世紀文教基金会」と「社団法人・台湾連合国協進会」である。前者は国連加盟問題を研究するシンクタンク、後者は、世論を盛り上げるイベントを開催したり、国連総会開催時に宣伝部隊を派遣したりといった活動を行っている。今秋の国連総会でもニューヨークで集会などを開く予定だという。両団体の代表者である陳隆志・総統府顧問に、台湾の国連加入を国際社会にどうアピールしているのかを聞いた。
「台湾は自由民主主義の国であり、人権を尊重し、平和を求める国家です。独裁政権による戒厳令体制から無血で民主化した過程、経済を発展させた経験を加盟各国と分かち合うことができます。そして、財政面での貢献をはじめ、さまざまな国連活動で加盟国としての責任を果たす能力と意思がある。また、台湾の二千三百万という人口はオーストラリアやベネズエラよりも多く、国連加盟国百九十二カ国を人口順にならべたときに下位となる五十カ国の合計とほぼ同じであり、台湾が加盟していない国連は本当の国際組織とは言えませんし、国連代表権をもたない台湾国民は国際的に不平等な扱いを受けているといわざるを得ません」
台湾が国連に加盟するにあたって当然予想される中国の反発について話が及ぶと、陳顧問の口調に力がこもった。
「これだけ政治が民主化され、自由で人権を尊重する台湾が、共産党の一党独裁で人権も軽視されている中国の反対によって国連に加盟できないということが許されるでしょうか。自由民主主義や人権は普遍的な人類の価値観であり、国連においても重視されるべきです。アメリカや日本、そして世界各国は、貿易や経済のことだけを考えるのではなく、道徳的な価値観に基づいて行動すべきでしょう」
→つづく
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| 「正論」平成17年9月号 |
論文
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