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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>




「父を助けて!」
脱北者支援で中国公安当局に捕まった米国人牧師の娘の告発(1)


米国法律事務所職員 グレイス・ユン

《今年五月九日、中国で脱北者の救出作業にあたっていた米国人牧師、フィリップ・ジュン・バック牧師(68)が、中国公安当局に逮捕された。三女のグレイス・ユンさん(29)は八月一日、東京で開かれた国際会議のために来日し、日・米・韓・モンゴルの四カ国の国会議員の前で、父親の一日も早い救出を訴えた。グレイスさんが泣き、聴衆が泣き、通訳までもが泣いた。招いたのはNGO「北朝鮮難民基金」、会議は「北朝鮮難民と人権に関する国際議員連盟」(IPCNKR)総会。このインタビューは帰米する朝、東京・上野の喫茶店で行われた。》

 −−逮捕からもう三カ月ですね。

 グレイス ええ、身柄を拘束されたのは脱北者をモンゴルへ送った直後のことでした。吉林省延吉にある外国人専用の勾留所に入れられています。

 −−逮捕容疑は。

 グレイス …。口にするのもはばかられる思いです。まるで中国側の逮捕理由を認めるようで…。あくまで中国側の言い分ですが「不法越境幇助」容疑です。私たち家族は絶対に認めません。不法越境は「飢えによる脱出」、幇助は「救出」と同義なのです。

 外国人なので拷問はないようですが健康を案じています。取り調べは二年にも及ぶといわれます。二年です。こんご身柄をどうするのか。いつ解放されるのか。中国当局は沈黙しています。司法制度が日米とは根本から違うのです。

 −−逮捕時の状況を。

 グレイス 父は米韓の牧師三人と脱北者をモンゴル国境近くまで送った帰路、飲食店に入ろうとしました。幾人かがじっと見ている奇妙な感じがしたので時間をおいて入店し、昼食を終えて出たところで拘束されました。

「政治目的の活動ではない、必死に助けを求めてくるのを無視できなかった」と説明し、三人はその日のうちに釈放されました。父だけが勾留されたのです。

 同じころ、父が送り届けた脱北者数名も逮捕されました。同時に逮捕されたということは、だれかが通報し、移送の道中、私服警官が尾行していたということなのでしょう。捕まった脱北者の消息は、その後分かりません。

 −−なぜ脱北支援を。

 グレイス 父は、北朝鮮で一九三八(昭和十三)年に生まれました。十歳のとき、朝鮮戦争の戦火を逃れるため兄、弟、妹の四人で韓国へ向かいました。「お前たちは先に南へ行け。必ず追いかけるから」。ところが再会を固く約束したのに、両親は待っても来ない。やがて三八度線の交通が遮断されました。いわゆる離散家族です。

 父らは韓国で孤児として育ちました。

 父は故郷が、両親のことが、忘れられませんでした。韓国から北朝鮮へ行けないので、八二年、四十一歳で米国へ移民し、八九年に帰化しました。

 宣教活動を始めたのは九二年です。ロシアのハバロフスクとウラジオストックで複数の神学校と教会を設立し、ラジオ放送で教えを語りました。二年後、中国に宣教の場を広げ、中国朝鮮族の伝道者たちと活動しました。

 九七年、やっと北朝鮮入りがかないました。数百、数千人もの人々が餓死していたころです。故郷にたどりつき親戚と再会しましたが、悲しいことに、両親はすでに他界していたのでした。

 北朝鮮から、全てを捨てて決死の思いで中国へ逃げてくる脱北者、とりわけ幼い子供たちに出会ったとき、父は、両親にさよならを告げ、兄弟と故郷を後にした自らの子供時代を思い出したのだと思います。

 垢だらけの子供に湯をかけ、服と下着を着せ、合う靴をさがし、親を失ったときの話をきく−−。父には、頼る術もなく絶望の中にいる脱北者を見捨てておくことはできませんでした。

 自らの自由は脱北者に捧げ、そして今、中国で獄中にいるのです。

→つづく

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 「正論」平成17年10月号 論文





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