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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>




「テレビは出て行け!」
佐藤栄作とホリエモンの場合


産経新聞記者 鵜野光博

 ホリエモンにも、テレビの選挙報道は「想定の範囲外」だったということだろうか。

 衆院選で広島6区から出馬して話題をまいたライブドア社長、堀江貴文氏は、落選した翌日の九月十二日の記者会見で、会見場からテレビカメラを締め出すという「珍事」を働いた。当時の報道によると、堀江氏は尾道市政記者クラブでNHKのテレビカメラを見つけて「テレビが入るなんて聞いてない。通信社と新聞社だけのはず」と抗議。NHKは同クラブの加盟社のため取材に問題はなかったが、堀江氏は「動画がいるなら撤収する。何も喋らない」とカメラクルーを睨みつけ、会見場から追い出したという。

 さらに会見後に抗議した記者に「テレビは僕の発言を都合のいい所だけ切り取って編集する。僕は胸を痛めているんですよ。自責の念を感じませんか」と詰め寄り、「感覚がマヒしてるんじゃないか」「あなたは永久に取材される立場にならないから分からないでしょう」と吐き捨てて会見場を後にしたという。

 ニッポン放送株の大量取得をめぐってフジテレビと渡り合っていた今春には、何があっても「想定の範囲内」とうそぶいていた堀江氏だから、「胸を痛めている」と記者に訴えたのはよほど腹に据えかねたものがあったとみえる。「さんざんテレビを利用しておいて」という突っ込みはさておき、この堀江氏の発言から、佐藤栄作元首相の退陣会見を連想する読者は多いことだろう。

 昭和四十七年六月、佐藤元首相は退陣会見で堀江氏とは全く逆にテレビ以外の新聞記者を締め出した。「テレビカメラはどこかね。僕は国民に直接話したい。テレビは真実を伝える。偏向的新聞は大嫌いだ」。怒った新聞記者が退席した会見場で、佐藤元首相はNHKのカメラに向かって一人でしゃべり続けた。

 ノーベル平和賞を受賞した元首相とホリエモンとを並べることには批判がありそうだ。が、三十三年を経て、テレビというメディアをめぐって正反対の発言が政治の世界から出てきたことは、現象としては面白い。

 さらに堀江氏が「本籍」をIT業界に置いていることも、この発言の面白さを増幅している。メディアの最先端にいる堀江氏が、より新しいメディアであるテレビの取材を拒否し、古色蒼然たる活字媒体の記者に敗因を饒舌に語っている様子は、一つの戯画にさえ見える。

 堀江氏にしてみれば、選挙戦は本業のインターネット・メディアを駆使した戦いになって然るべきだったろう。しかし現状では公職選挙法でネットの選挙利用は禁じられ、ライブドアのサイト自体も「社長が立候補」という事態を受け、「選挙期間中は、恣意性を排除し、中立性を確保するため、政治・選挙関連記事の掲載はしません」(八月十九日)とアナウンス。堀江氏が日々の動静や本音を綴る人気ブログ「社長日記」も、出馬表明後は一切更新されなかった。

 ネットの特長の一つは編集なしに言い分を伝えられる点にあり、その意味で堀江氏がテレビの「編集」に抗議したのは分かりやすい話だ。序盤でテレビクルーを引き連れて街を歩いた堀江氏は、「今度は政界に出てきた珍獣・ホリエモン」として面白おかしく扱われた。最終的に十一万一千票対八万四千票で亀井静香氏に敗れるところまで善戦したが、ワイドショーのキワモノ的な扱いは最後まで変わることがなかった。

 コントロールできないメディアに対する苛立ちは、佐藤元首相の場合は「偏向的新聞」に、堀江氏の場合はテレビに向けられた。

 退陣会見でカメラに一人話した佐藤元首相の姿に、あえて今回の政局を重ねるならば、解散当夜に小泉首相がNHKで行ったテレビ演説だろうか。大方の活字メディアが「解散すれば自民党は自爆」と予想するなか、ガリレオを引用したこの演説で「小泉劇場」の幕が開いた。テレビを利用しようとして、最後に泣き言と苛立ちを報道陣にぶつけた堀江氏とは役者の格が違った。

 ところで堀江氏は出馬前、自民党幹部以外に民主党の岡田克也代表にも会い、どちらの党から出るか天秤にかけていたことを自ら明らかにしている。民主党幹部によると、堀江氏は岡田代表との面談中に争点の単純化を求め、「どうせ国民はバカですから」と五回繰り返したという。堀江氏は結局、民主党ではなく自民党を選び、予想以上に善戦し、そして自民党は歴史的大勝を収めた。

 これは少々、気味の悪い話だ。「僕は国民に直接話したい」「テレビは真実を伝える」「どうせ国民はバカですから」。今回の選挙を振り返ると、この三つの台詞が違和感なくつながるような気がするのは、錯覚だろうか。

 「正論」平成17年11月号 論文





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