お元気ですか。
晴れた日の東京の風景が、じつにあざやかです。煤塵(ばいじん)など、みじんも感じられない澄み切った大気。東京から富士山を見ることができるのは、おそらく冬だけでしょう。
大手町の街路樹の、イチョウの葉も残り少なくなりました。歩道の落ち葉もちらほらと、元気なくたたずんでいます。昔、ヘルシンキの公園で踏みしめた、ボリューム感あふれるイチョウの落ち葉が懐かしくなりました。
まるで百畳敷きの、黄金のじゅうたんのような、まばゆいばかりの光景に遭遇したのです。地上をおおうイチョウの景観におもわず、息をのみました。
このイチョウじゅうたんの公園だったか、それともべつの公園だったか、「あれはシベリウスの銅像です」と案内の人が教えてくれました。
音楽は歌謡曲も、クラシックも、カラオケも、からきしダメです。それでも、シベリウスという名前はかろうじて知っていました。ほう、シベリウスはフィンランド人でしたか、と、ずいぶん昔のことなのに、そう相づちをうったのを、いまもはっきりと覚えています。
人間というのは、不思議な動物ですね。きのうのことはすっかり忘れているのに、三十年前の出来事をこと細かく再現できる。
ふた昔くらい前、シベリウスの交響詩「フィンランディア」を聴く機会がありました。このときも、ヘルシンキの、あのイチョウじゅうたんが眼前に浮かんできました。
よいお年を。
「正論」編集長 大島信三
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