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平成20(2008)年7月29日[火]

【正論】北京五輪で日本人の気骨を 平和・安全保障研究所理事長 西原正


異様な雰囲気に備える

 いよいよ8月8日から北京オリンピック(五輪)が始まる。今回はこれまでと比べて、2つの点で大きく異なりそうである。まず4年に1度場所を変えて行う国際大会である五輪は、国際性こそが強調されるべきであるのに、今回は、中国がこれを中国民族の高揚のために利用しようとしている点である。

 3月から5月にかけ世界各地で聖火リレーが行われた際多くの妨害が起きたが、聖火を守ろうとリレーに加わった中国人の「留学生」(実際は誰だか不明)は、中国の国旗だけを振り、五輪の旗を振ろうとさえしなかった。

 第2に、競技が始まれば中国が得意とする種目で、中国人の観戦者が異様に興奮し、相手側をののしり、侮蔑(ぶべつ)的な言動をすることが予想される点である。とくに中国チームが負けたときの中国人観戦者が、審判や敵チームに対する危険なまでの敵意を示す可能性がある。選手のマナー違反も警戒しなければならない。

 2004年8月、北京で行われたサッカーのアジア杯決勝戦で日本は中国を3−1で負かしたのであるが、試合中の中国人選手のラフプレー、試合後の中国人観戦客の暴徒化、日本大使館公使の公用車の破壊など、ひどい試合になったことを想起すればよい。暴徒化した観客は日本人サポーターを取り囲み、未明になってようやく脱出できる事態になった。

 今回は中国当局が国民の応援マナーの改善に努力をしているという。大きな改善を期待したいところだが、日本側は選手も観戦者も、ちょっとのことには動じない沈着さと精神力をもって対処する気構えが必要だと思う。

 ≪公正さと毅然たる態度≫

 日本人選手は正々堂々と戦い、応援者は品格あるマナーを最後まで貫いてほしい。言うまでもなく、日本人選手の中からドーピングの陽性反応者が出たり、試合中に意図的な反則者が出るといったことが、あってはならない。また試合での敗因を相手側の応援マナーの悪さや施設の不適切さ、あるいは大気汚染のせいにすべきではない。それらの批判は他国の観戦者や競技委員会、あるいはジャーナリストに任せればよい。

 相手の反則などに関しては監督に任せて、選手はひたすら真剣勝負に専念すべきである。過酷な条件の中で毅然(きぜん)として戦う根性こそが観戦者を感動させる。

 「君が代」が流れて中国人が起立しなくても、また中国人が日本チームにブーイングをしたとしても、我慢強く受け流すことが必要である。日本人の忍耐は、中国人あるいは他の国籍の観戦者からの尊敬を勝ち得るであろう。昨年9月の杭州での女子サッカーW杯では中国の若者は、対戦相手のドイツチームばかりを応援し、日本チームにはブーイングを浴びせていた。負けた日本チームが試合後に客席に向かって「謝謝 CHINA」と書いた横断幕を掲げたことで、客席の態度は好意的態度に一変し、日本チームに拍手を送ったという。ある中国人は「日本は試合に負けたけど、観客の尊敬を集めた。精神的には勝ったんだと思う」と漏らしたという(7月4日付朝日新聞)。

 ≪礼に始まり礼に終わる≫

 柔道、剣道、相撲などの日本の国技は礼節を重んじる。礼に始まり礼に終わるのが神髄であるべきである。柔道が国際化したのは良かったが、その伝統が無視され、単なる勝敗を決めるスポーツになり下がってしまったのは極めて残念である。

 少なくとも日本代表の柔道選手は国際舞台においてもこの神髄を守るべきである。勝った日本選手がガッツポーズをとるのは、神髄にもとる。敗者への謝意と敬意を表するのが本来の振る舞いであるべきである。

 レスリング、サッカー、バレー、野球など、他の多くのスポーツも基本的には同じ精神で臨むべきではないか。他国のチームがそうしなくても、日本チームが敗者への礼節を示すことで、その場に国際試合の真の美学が生まれるのではないか。

 選手に求められるいま一つ重要なのは、メダル受賞者の表彰式での態度である。表彰式で「君が代」が流れるとき、日本のメダリストがしばしば帽子をかぶったままでいたり、キョロキョロしたりしているのはテレビで見ていてこちらが恥ずかしくなる。帽子をとり、静かに国旗に正対し直立不動でいるのが、日本人のあるべき振る舞いである。代表選手は日本人の品格を示す代表でもあってほしい。

 日本選手を北京に送るにあたって、関係協会、連盟は日本人の品格を維持し、高める教導を選手たちに対して行うべきである。華やいだ結団式などだけでは、本当の「品格」は育たない。(にしはら まさし)