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平成21(2009)年4月9日[木]

【正論】天皇陛下ご結婚50年を祝して 国学院大学教授・大原康男


欧米を参考に明治期から

 天皇・皇后両陛下には明日、ご結婚満50年をお迎えになる。一般でいう金婚式に当たるわけだが、既に本年1月7日にはご即位満20年を閲(けみ)しておられ、重ねてのご慶事に心より奉祝申し上げたい。

 天皇のご結婚を記念してお祝いするのは、明治27年に挙行された明治天皇の「大婚25年祝典」が嚆矢(こうし)である。これは欧米諸国で広く行われている銀婚式を参考にした全くの新例であるが、大正14年に執り行われた大正天皇のそれは「大婚25年」ではなく、「天皇皇后結婚満25年」と称された。

 「大婚」は「天子の婚礼」を意味する漢語に由来する。皇室の婚嫁や親子・親権などについて規定した皇室親族令でも「天皇の婚姻」とされているため、ご即位の翌年である明治元年に結婚された明治天皇とは違って、皇太子であられた明治33年の大正天皇のご結婚は「大婚」ではないとされたからであろう。

 続く大正13年の昭和天皇のご結婚も、昭和34年の今上(きんじょう)天皇のご結婚も大正天皇と同じく皇太子時代のことであったので、お三方に対しては「大婚…年」という表現は、少なくとも過去の法令の用語に準拠する限り、適切ではないと思われる。

 とはいうものの、大正天皇のご結婚25年を記念して発行された切手には「大婚25年紀念」と印刷されている。同じように昭和天皇のご結婚50年記念切手にも「大婚50年記念」とあるのである。この前例をもってすれば、一つの慣行的呼称とも認められ、今回のご慶事を「大婚50年」と称したとしても、必ずしも全くの誤りだとは言い切れない。

 ついでながら、大正天皇のご結婚はわが国における神前結婚式のルーツとなったことでも知られている。皇室の祖先神である天照大神を奉祀(ほうし)する宮中の賢所で結婚の儀を挙げられた皇太子に倣って、神社で結婚式を行いたいという声があちこちから起こった。翌明治34年に神前結婚式第一号を営んだのが当時東京・日比谷に鎮座し、後に飯田橋に移転した現在の東京大神宮である。

 ≪内外の激動期を乗り越え≫

 さて、昭和59年に陛下はご結婚25年を迎えられたが、この年は昭和天皇のご結婚60年でもあった。一般でいうダイヤモンド婚に相当し、記紀伝承時代を除いては他に例を見ない嘉事である。さらに、2年後の昭和61年はご在位満60年という節目の年に当たる。皇室のご慶事が幾重にも重なったが、わが国は二度にわたるオイル・ショックを切り抜けて経済大国の地位を不動のものとし、戦後最も繁栄を謳歌(おうか)した時期でもあった。

 ところが、昭和から平成に御代が改まるや、わが国をめぐる内外の状況は大きく変動する。

 国際的には、中国の天安門事件があり、ベルリンの壁崩壊を契機とするソ連東欧圏の解体で冷戦が終結する。さらに湾岸戦争、台湾海峡の緊迫と北朝鮮の核開発疑惑と続き、米国同時多発テロとイラク戦争、ダルフールでの虐殺やチベット争乱に見る中国の覇権主義の拡大へと、様相が一変する。

 国内的には、バブル経済の崩壊と景気の長期低迷に苦しむ中で、国政の55年体制が終わり、連立政権の迷走を皮切りに不安定な政権運営が続く。阪神淡路大震災、教科書検定や領土問題などで露呈された主権意識の喪失、教育の荒廃とモラル・ハザードの蔓延(まんえん)、ねじれ国会による国政の停滞に至り、ついには「100年に1度」という内外にわたる未曾有の経済的危機の渦中にある。

 ≪国難打開へ石清水ご参拝≫

 この困難な時代に、陛下は「大行(たいこう)天皇(昭和天皇)の御遺徳に深く思いをいたし、いかなるときにも国民とともにあることを念願された御心を心としつつ」(即位後朝見の儀のお言葉)とお述べになった通り、皇后陛下とともに国民統合の象徴としてのお務めを真摯(しんし)に果たしてこられたことは今さら改めて申すまでもない。

 とりわけ、祭祀を中核とする皇室の伝統を重視されるご姿勢には格別のものがあり、平成9年8月19日には京都の石清水八幡宮を天皇としては120年ぶりに参拝された。

 これは現代の日本が元寇や幕末動乱期に匹敵する国家的危機にあると認識されて、往時の亀山上皇と孝明天皇を範とされた国難打開のご祈願であったと承っている。

 また、平成15年には鹿児島県を最後として全国47都道府県をすべて巡幸(じゅんこう)され、学術・産業の振興や福祉の増進、地震や火山噴火などの被災地の激励、あるいは広島・長崎・沖縄からサイパンに続く戦没者の追悼に至るまで、能う限り国民との交流に努めてこられたことも記憶に新しい。

 このような天皇陛下を国民統合の中心に仰ぎ、国民が叡智を出し合い、協力一致して努力を尽くし、この一大危機を克服することができるよう心から願う。それは決して不可能ではあるまい。その行く先に「ご即位30年」と「ご結婚60年」の奉祝があることを切に念じつつ…。(おおはら やすお)