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平成21(2009)年2月1日[月]

【正論】国の経営感覚もたない鳩山政権 早稲田大学大学院教授・川本裕子




 国会で予算案など重要な経済政策の議論が開始された。景気は回復の道のりをたどっているが、今後本格的成長への回帰を展望する局面となる。しかし、政治資金をめぐる問題で早くも見通しが不透明化している。政治的動向は今年も日本経済にとって大きなリスク要因だ。

 ≪国民の安心感は道半ば≫

 昨年の総選挙で民主党を支持したさまざまな人々の中での期待の共通項は、政官関係を含む旧態依然たる「しがらみ」を脱却し新しい日本を創っていくことだったと思う。方法論としては公共事業など国家予算の無駄を削減し、少子化問題や若者雇用など「人」の問題に政策重点をシフトし、閉塞(へいそく)感を取り払い、国の未来を語れるようにする点に期待が集まった。

 政権交代以降4カ月余り、事業仕分けや年末の予算編成などさまざまなことがあったが、国民に安心感が芽生えたとはとてもいえない。国民の多数が民主党に票を投じたが、総選挙では議席数を増やせなかった少数政党との連立政権となり、政策もそうした政治的配慮に流される結果となったことは国民には驚きだったろう。また、「既存のしがらみを断つ」とは、特定の利益集団とは縁を切り、透明な構造の下、政策本位で政治を進めるということと多くの国民は受け取っているが、新たに特定利益集団と与党が結びつくのが民主党の意図だとすると、これまた国民の期待とは違ってくる。

 しかし、最大の問題は、この政権には国の繁栄を導く「経営感覚」があるのかという点だ。経営とは部分最適に陥らないように全体を見て、持続可能であるようバランス感覚をもつことである。子どもたちを重視する方向に踏み出したことは評価できるが、予算編成では際限のない公的債務累積を招き、将来世代の負担増の懸念を一気に強めた。新政権はどちらの方向を向いているのか。

 それ以上に根本的なのは経済の基礎となる安全保障問題だ。先人が営々と築き上げてきた日米の信頼関係が、首脳同士話もできない状況になるとは誰も予想しなかった。安全保障は究極的には国民の命にかかわり、その意味で最も優先順位が高く、しかも米国を始め相手のある微妙で難しい問題だ。こうした「物事の本質」を理解していないかのように見える首相の軽い言動は日本国全体にとって大きなマイナスを与える結果となっている。安全保障面で自らが不安を生み出す源になっては「国民の命を守る政治」というスローガンもむなしく響く。命(安全保障)あっての生活(経済)であり、これ以上の混乱を続けて、国民を不安に陥れるべきではない。

 ≪首相は安心の本質の理解を≫

 国民経済の運営方法も問われている。雇用保険の適用範囲の拡充などで個人のセーフティーネットを拡充することは新政権の打ち出した大事なポイントだ。ただし、その意義を安心が高まるという狭い意味だけにとらえていては物事の本質を見誤る。個人がリスクを取れる範囲が拡大することで成長に向けた政策転換が可能となることを見落としてはならない。

 そもそも、この政権は、経済繁栄は企業部門が富をつくりだしてはじめて可能であることをどれだけ理解しているのだろうか。例えば子ども手当で需要が創出されるのは良いが、育児サービスの種類や量を増加させ、また質の高いサービスを競わせる供給側の制度改革を伴わなければ新たな供給は生まれず、せっかくの需要も供給と結びつくことができない。成長も不可能だ。需要を起点として経済を動かす発想はよいが、供給サイド重視は古い、これからは需要中心などとの言説はあまり意味があるとは思えない。需要と供給は表裏の関係で二分法ではなく、新需要の開拓と併せ、供給側が自由に革新を生み出せるような環境整備が同時に求められる。

 ≪明確なメッセージが必要だ≫

 若者の才能を伸ばし、世界にも雄飛する活躍の場を作るのにも自由な経済活動とこれに伴う人、金、知恵のクロスボーダーの活発な動きが不可欠だ。

 年末の成長戦略でも指摘されたように、自由を阻む政府の規制は撤廃し、アジアや欧米の海外の担い手も積極的に取り込んで企業部門の活性化を進めるべきだろう。これは民主党政権が範とする北欧諸国の福祉国家の下での経済改革の基本でもある。

 経済の活性化は生産性の低い旧来の事業部門や企業からこれからの成長分野に人や金が移動することを意味している。政府の政策はこうした資源移動を加速し円滑化することに向けられるべきであり、旧来の構造からの変化を阻害することがあってはならない。

 経済運営の「肝」は、こうした経営感覚にあるが、残念ながら海外からは既に連立政権の経済運営に不信感が強まっている。政府首脳は、今一度鏡で自らの姿を客観的に凝視した方がよい。法人税引き下げや対日投資の倍増のコミットメントなど、明確なメッセージなしにはもはや事態を打開できないという危機感を持つべきだ。(かわもと ゆうこ)