奈良県香芝市　主婦　多田美砂　３８

　母は５年前がんで亡くなりましたが、最後まで、ある先生にお世話になることを希望しました。１５年前、放射線と抗がん剤の治療を受けたときの主治医です。１０年後に新たながんが見つかり、余命いくらもないと聞かされました。家族としては他の病院を探せばもっといい治療が受けられるのでは、と考えました。しかし、母はこの先生がいるから、ほかには移りたくないと強く希望しました。

　先生は、こう言ったら失礼ですが、てきぱき話すでもなく、にこにこ笑顔で社交的というふうでもなく、本当に普通で素朴な感じでした。しかし、母は「私のくだらない話にもつきあってくれる」「とても誠実」と、言っておりました。

　確かに、先生は私たちが他の医療機関を考えたり、素人考えで相談しても、嫌な顔ひとつせずに一緒に考えて下さいました。今から思えば、失礼な質問だったかと思うような内容もありました。

　母は、そんな先生を信頼していたのだと思います。医療技術も大切ですが、先生の人間性、先生を信頼する患者と家族があって、初めて納得のいく医療ができ、がんと向き合えるのではないでしょうか。

(2007/08/27)