産経新聞社

ゆうゆうLife

怖がらずぶつかるのも夫婦

 静岡市 主婦 60

 夫が2度にわたり、がんの手術をしました。最初の手術で、手術後は精神面のケアが大切と学習した私。2度目は大丈夫と思っていましたが、退院1カ月後の夜、たわいもないことから大げんかに。

 口達者の私に太刀打ちできなくなった夫は「このやろう」と、かごの果物を投げつけ、それでも口を止めないと、食卓のいすを持ち上げました。私がそのいすをもぎ取ると、今度はペットボトルの水を浴びせました。

 私は「もう限界」と夫をにらみ、買い物バッグをつかんで飛び出しました。夫は追いかけるように、玄関の戸をけり倒していました。「もう終わりだ」。夫のうめくような声が聞こえました。

 その声に振り返らずに駐車場に向かいましたが、夫の車が私の車をふさぎ、出られません。私は勢いをそがれ、同時に夕食の支度中で、鍋に火をかけたままだと思いだしました。

 台所に戻った私に、「なんだ、出ていったんじゃないのか」と、夫の驚きと安堵(あんど)の入り交じった声。「あなたの車が邪魔して出られなかったのよ」と答えると、なんだか笑えてきました。

 今思えば、私は心の中に本音を押し込み、穏便に、事を荒立てないようにとストレスをため込んでいたように思います。人生には、どこかで区切りをつけなければならないときがあります。「時間が解決」「見て見ぬふり」「先のばし」では解決できないことがあります。怖がって逃げずに、真正面から向き合ってぶつかることも一つの方法だと感じました。

 夫はやっと、弱音を吐くようになり、第一関門を突破したように思います。けんかのたびに夫との赤い糸を見つけてしまう私と、私がいないと人生が終わる夫。これが夫婦なんだと改めて思いました。

(2009/02/25)