産経新聞社

ゆうゆうLife

人生を全うするのは難しい

 東京都渋谷区 主婦 山口純子(46)

 実父(享年81)が亡くなり、1月から認知症で要介護度2の実母(82)との同居が始まりました。

 先日、母が入浴後、当日はいていた靴下を再度、はこうとしました。「一日はいていたから、新しい物に変えようね」と声をかけたところ、「この靴下が気に入っているから、これをはきたい」と言うのです。

 はっ、としました。最近、私は母の介護で時間の制約があったり、忍耐を必要とされたりする場面が多く、ストレスがたまり気味でした。

 しかし、思えば母も自分で気に入った靴下を買いに行くことも自分で洗濯をすることもできず、与えられた状況の中で耐えながら何とか少しでも心地よい状況にいようとしているんだな、と思いました。

 介護者の立場になって初めて気付くことがあります。思い起こせば、父は生前、母と、97歳の認知症が進んでいる祖母とを、一人で介護していました。

 当時、本格的な介護をしていなかった私は、父や当時のケアマネジャーに「祖母には人生を全うしてほしい、と思っています」と軽々しく言ってしまいました。しかしそれは、父にとっても、祖母にとっても、かなりの困難な状況であったと今はおもんぱかることができます。

 人生を全うすることは、本当は難しいのだと思います。

(2009/07/17)