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(26)定年後の自堕落

 定年退職、3カ月目という知人に、「どんな感じ?」と聞いてみたら、「最高!」との返事が返ってきた。どんな風に、最高!かというと、家でぐだぐだしていられるのが、素晴らしいとか。が、しかしである。

 妻の側から言うと、毎日、家でごろごろしている定年後の夫はすこぶる評判が悪い。

 家にいられるだけでうっとうしい、無為に暮らしている姿が情けない、趣味を見つけるとか、ボランティアをするとか、身体が元気なうちにもうひと働きするとか、せめて、掃除をするとか、食事を作るとか…。

 やることはいくらでもあるでしょっ、と、つい苦言がとめどもなくなると、知人たちは言う。

 なるほど、なるほど、と思わないわけではない。が、「定年後の男性」を取材していた折、こんなことがあった。

 ある男性が、真剣なまなざしで吐き捨てるように言ったのである。

 「生き甲斐とか、目標とか、そういうものから、もう男を放っておいてほしいんだ。嫌なんだ。もう何もしたくないんだっ!」

 正直言って、衝撃を受けた。

 聞けば、彼は疲れているのだった。相当に厳しい会社体験をし、辛抱をし続け、やっと定年で、もう力尽きたという感じなのだ。

 だから、1、2年は、自堕落(じだらく)に暮らさないと、組織の中でゆがめられた「本来の自分」を取り戻せない。定年後の男にはリハビリが必要なのだ、と言う。

 彼だけではない。

 「定年後の第2の人生」とか「いきいきセカンドライフ」とか、そんな雑誌のタイトルにあおられるような「さもしい生き方」はおれはしたくない。むしろ、「何もしないでいること」に積極的な意味を感じたい、と開き直る人もいる。

 一方では、「まっ白のスケジュール帳」におびえて、やみくもに予定を入れようと焦りまくる人もいる。

 だから、「自堕落に生きたい!」「放っといてくれ!」というのが、定年後の男性たちの一般的な本音なのかどうかは、不明だ。  

 少数派なのかもしれない。

 が、「妻が、これほど口うるさい女」だったとは知らなかった、と口をそろえる彼らを見ると、定年後のしばしの間、妻も「夫の自堕落」を見てみぬ振りが肝心かも。

 定年後の夫婦関係のリセットは焦らずに、まず、一呼吸おいてからという戦略でいく方が波風が立たないだろうと思う。

 ま、これは、夫のいない女のお気楽な見解かもしれないけれど。

 (ノンフィクション作家 久田恵)

(2007/07/06)

 

論説

 

 
 
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