(27)自立した夫婦の家
20年ほど前、ある人の自宅を訪ねて、驚いたことがあった。
玄関が2つ。別々の表札のかかる小さな2軒があって、片方が夫の家で、もう一方が妻の家なのだ。
へえーっ、と思っていたら、実は家の中にお互いの家を行き来できる秘密のドアがあって、つながっている!
夫婦が、お互いに生活自立し、適度な距離を取りつつ、支えあって暮らすというスタイルだ。その時、「ずっと、恋し合っていられる」と言われて、うらやましさで頭がクラクラした。
なにしろ、そのころ、こちらは、老いた両親と同居のごたごた暮らし。家族関係がすっかり煮詰まっていた。たまには、1人になって、もの思いにふけりたい、と切望していたのだ。1人暮らしになってみれば、ま、こんなものか、という感じで、あのごちゃごちゃも悪くなかったわ、という思いだけれど。当時は、この「自立しあった夫婦」の新しい暮らし方に感動したものだった。
そんなことを思いだしたのは、最近の熟年夫婦の家のリフォームのコンセプトが、この「自立した夫婦の家」と、聞いたせい。
さすがに、隣り合わせの2軒、とはいかないまでも、家を「夫の占有スペース」「妻の占有スペース」、そして「夫婦共有スペース」の3つのゾーンに分け、つかず離れずの関係で暮らすということが提案され、受けているそうだ。
ちなみに、知人の知り合いに、将来、娘夫婦との同居を考えて、家を2世帯住宅にした夫婦が居る。ところが、娘が即、離婚。帰ってくるかなあ、と思っていたら、彼女は、お気楽な1人暮らしを選択し、2度と結婚はしないし、親とも同居しないと宣言した。
がっかりしたものの、この夫婦の立ち直りは早く、ならば、試みにと、2世帯住宅を活用して夫と妻と別々に暮らしを始めてみた。
結果、これが最高だった、という。
今日は、「どっちでご飯、食べる?」とか「私、ワインを持っていくわ」などと、同じ家の中で言い合って、夫婦でときめいたりしているらしい。「生活自立した夫婦関係ってね、すごくいいそうよ」と知人がうらやましそうに教えてくれた。
ま、勝手にしてくれ、という感じではあるけれど、団塊世代の夫婦って、なにかと、こういうふうな関係性がとっても好きなのかもしれない。
保守的なんだか、革新的なんだか、ぜんぜん分からない世代だ。(ノンフィクション作家)
(2007/07/13)