(30)「子ども可」の部屋
3カ月前に引っ越して、やっと落ち着いたばかりの知人が、「やっぱり、バレちゃったわ」と言った。
なにがバレたかと言うと、「子どもがいること」が、である。
仕事から戻ったら、不動産屋さんから、「契約違反なので、出ていくように」との手紙がアパートに届いていたらしい。
実は、彼女はシングルマザー。
6畳1間、お風呂なしで、月4万5000円の部屋に住んでいる。探しても、探しても、低家賃で「子ども可」の部屋が見つからない。で、つい子どもがいることを内証で入居。バレちゃう前に当たりますように、と祈る思いで都営住宅に申し込んでいたものの、そちらは、あえなく抽選漏れ。
にっちもさっちもいかないわあ、の状態ではあるけれど、シングルマザーは、困難慣れしているので、落ち込む様子がないのが、なかなかのもの。
そもそも、彼女の子どもは13歳のお行儀のいい女の子。家賃もきちんと払っている。そう周りに迷惑をかけているとも思えない。ここは「申し訳ありません」の低姿勢で引き伸ばし、その間になんとか別の手立てを、の戦略でいくことにするとか。
傍らで聞いていた別の知人は、かつて「子どもがもう1人生まれたら、出ていけ」とアパートの家主に言われた苦い思いがあるとかで、怒り心頭。
理不尽だ!戦え! と主張したけれど、「やっぱり、違反は違反だし…」ということで、ここは、負けると分かる戦いにエネルギーを消耗させずにいこうということに。
なにを隠そう、私も「子ども可」のアパート探しに疲れ果てたあげく、やっと「女の子なら可」の部屋を見つけ、当時3歳の息子を女装させて入居した前科がある。
あれから、二十数年。すでに時効、すでに遠い記憶、と思っていたけれど、子どもに冷たい世間の風は、ちっとも変わっていなかったらしい。
聞けば、状況はさらに厳しいとか。
まったくもって、少子化対策って、なにをしているのだろう。
親が1人で働いて自立し、子どもを育てられる、それが男でも、女でも。その公的な血の通った支えがないと、若い世代は安心して子供を産めないし、将来に希望を持って生きられないよ。
まったく、ひどいもんです。(ノンフィクション作家)
(2007/08/03)