(36) 水中歩き自分リセット
週に1回、水中ウオーキングに出掛けることにしている。
すでに1年。子どものころから運動が大の苦手だった私にしては、よく続いている。
そもそものきっかけは、ひとりで機嫌よく暮らすには、1階のキッチンと2階の寝室間の階段を、タタタッ…と軽快に上り下りできることが重要だと思ったからだ。
そう、「足腰を鍛える」は、64歳で倒れ、車いすの生活を強いられた母が身をていして伝えてくれた教訓なのだ。これぞ「ひとりで生きる練習」の最重要課題よね、と自分に言い聞かせて、水中を歩き始めた。
実は、この「水中を歩く」という単純な行為はなかなかにいい。
最初は、水の抵抗にあって歩くのがもどかしいのだけれど、じきに身体が慣れてスムーズになり、自然と一定のリズムを刻みだすのだ。
そして、20分ぐらいすると、脳内から快楽ホルモンが分泌されるらしく、どんどん心地よくなっていく。
はた目にはどう見えていようとも、本人はちょっとしたお魚気分。狭いプールの中を歩いているだけなのに、まるで自在に大海を泳いでいる心持ちになる。
水の浮力で身体中の血液や体液がスムーズに巡りだしたこの心地よさの中で、私は、いつも1週間分の自分をきっちりリセットすることにしている。
黙々と泳ぎながら、いや、歩きながら、ちょっと心にわだかまっていたことなどを改めて取り出して整理し、別角度から考え直したりした後、たいていは「ま、いいかあ」のゴミ箱にほうり込んでしまう。
また、心に刺さっていた小さなトゲのようなものも、この水中を歩いている最中に全部抜いてすっきりとさせる。
人生の大きな課題は、そうそう簡単にはクリアはできないけれど、日々の人間関係などの小さな出来事とか、些細(ささい)な不満や鬱屈(うっくつ)などは、積もらせておくとロクなことにならないから、これがなかなかよい。
1時間、たっぷり歩いて、1週間分の自分をリセットしてしまうと、プールから上がったときは、なんだか上機嫌な私になっていて、肩凝りはほぐれているし、顔のむくみも取れているし、という次第。
ひとりで生きるには、なにごとも予防が大事で、心や身体の悩みの種は芽を出したところで有無を言わせず摘んでしまえばいい、と思うのだけれど、どんなものかしら。
そんなわけで、水中ウオーキングはお勧めである。
(ノンフィクション作家 久田恵)
(2007/09/21)