(37)改装で“家カフェ”
家をリフォームした。
1階のリビングを広げて、オープンスペースを作り、そこをカフェ風にしたのだ。さらに庭に頑丈なウッドデッキを作って、車いす仕様にもした。
ひとり暮らしで低年金。老後に備えて貯蓄につとめねばならないのに、このような暴挙はいかがなものか、と思いもしたが、やりたいことは今のうちにやってしまわなわきゃ、一生できないかもしれない、と決行。すでに4カ月。
涼しくなったので、徒歩2分の介護ホームに入居している父を、散歩のついでに車いすで連れてきたりする。
で、「ここ、喫茶店よ、おいしいエスプレッソコーヒーはいかが?」などと言って、コーヒーを出したりする。むろん、嚥下(えんげ)困難の彼には、とろみをつけたコーヒーだけれど。
日に何度もカフェ通いをしていた喫茶店好きの父は、自分の家なのに「ここは、いいところだ」とご満悦だ。
さらに、この夏には、友人、知人、ご近所の方を招いて、ホームコンサートを開いた。大好評だった。2カ月に一度は、ここで「お茶会」なども催している。
本当は、カフェを開業できたらいいのだけれど、キッチンがひとつじゃ駄目とか、食品衛生法とかがあって、さらにリフォームをしないと営業はできないらしい。
そんなわけで、目下はカフェごっこ。遊びに来た知人にメニューを渡して「何になさいます?」などと言って、面白がっている。われながら、「なにやってんだか」、という感じだが、最近は、自宅を拠点に、いろいろなことを始める人が増えている。
家の玄関先でパン屋さんをやっているとか、リビングでランチレストランを始めたとか。その他、料理教室や手芸教室、趣味のお店などなど。
そう、高齢になればなるほど、人は遠くへいけなくなる。車の行き交う通りは怖いし、駅前まで歩いていくのは一苦労。自分の住む住宅街の中にいろんなものがあれば、実に便利で、楽しい。
今までは、老後は自宅を二世帯住宅に、と考える人が少なくなかったけれど、これからの資産活用法として、「自宅で起業」が、さらにはやるにちがいない。
地域に生まれる小さな市場、言うならば「ご近所市場」で、地域の振興と親交を深めましょう、という方向はなかなかにいい感じだと思う。 (ノンフィクション作家 久田恵)
(2007/09/28)