産経新聞社

ゆうゆうLife

(41)「妻を養う」意識、希薄に

 結婚後も共働きで、それぞれに豊かな経済生活を享受していた若い夫婦がいた。

 一応、夫が家のローンを担当し、妻が食費などの生活費を担当していた。が、子どもができたのを機に妻が退職。彼女は、夫に月々の生活費を求めた。

 ところが、夫はびっくりした声で言ったのだそうな。

 「ええっ! なんでえ? 生活費はキミの担当じゃないか。キミの貯金をおろして使えばいいじゃないかあ」

 そう言われて妻もびっくり。そう、夫には、妻子を養うという「扶養意識」がまったくなかったのだった。

 ああ、仕事をやめなきゃよかった、うかつだった、と後悔しつつ、彼女は、在宅ワークを即刻開始。家事、育児、仕事のすべてをこなしながら、「結婚って、リスクの高い選択だったのね」とぼやいていた。実は、実は、こんな話が少なくないのである。

 かつては、結婚が「女の永久就職」と言われていた時代もあった。男が「妻子を養うのは常識」だった時代もあった。けれど、今や、若い男性には、確実に「家族への扶養意識」が希薄になりつつある。

 それもそのはず、まわりを見回すと、成人後も実家にパラサイトを続けている息子たちが多くなった。ワーキングプア世代という時代の特異事情もあるけれど、彼らにしてみれば、貧乏でも、ずーっと個室付き、食事付き、家事付き。

 おまけに何ら束縛も受けずに女性たちとも自由に付き合えて、今時、責任を取るなんてねえ、必要もないしねえ。

 おまけに、「子どもが離婚して戻ってきちゃってえ」という話もちらほら。よくよく聞けば、それが娘ではなく、息子だったりして、「まったく、困ったものよねえ」と嘆きつつも、母がちらと嬉しそうだったりもする。

 その母たちが、いずれも、私の同級生、団塊世代だったりもするわけで、自分のことはさておき(私にも息子がいるもので大きなことは言えない)、これでは、今時の若い女性たちが、結婚するのも、それを継続するのも、子どもを産むのも大変だろうなあ、と思わずにはいられない。

 そんな話をしていたら、20代そこそこの女性が語気を強めて言った。「だから、今は、経済自立はさておき、せめて生活自立した男、結婚しても女のお荷物にならない男がトレンドなんです」だって。

 ここ10年で、どうも「結婚の形」は大変貌(へんぼう)を遂げていきつつあるようだ。(ノンフィクション作家 久田恵)

(2007/10/26)