産経新聞社

ゆうゆうLife

(43)娘の結婚を望まぬ母親

 娘が結婚してがっくりきている知人がいる。

 「結婚なんかしなきゃいいのに。いいことないのに…」 

 とぼやく彼女。それを思わず口にして、夫からたしなめられたと聞いて、ほほう、と思った。

 ソウイウモノナノカ…。あいにく私には娘がいないので今ひとつ、その心境が分からない。

 で、まわりに聞いてみたら、「フフフ。本音はね、そうよ」と言う娘持ちの同世代(60歳前後の団塊妻たちですが)が、おお、なんと1人や2人ではなかった!

 「なかなか、結婚しないので困っちゃう」と口では散々嘆きつつ、実は全然、困っていないらしいのだ。聞けば、すでに思春期を終えて(ここが肝心)、社会化を果たし(ここも肝心)、母にそれなりの配慮のできるようになった30代前後の娘と言うのは、すごくいいらしいのだ。

 そのような娘は家族の中で、母にとっては一番頼りになる話し相手で遊び相手。同じ本を読んで感想を言い合ったり、一緒に外国ツアーに出掛けたり、買い物に行ったり、それはもう楽しいらしい。

 おまけに、娘は夫との間の緩衝材で、家族の中で妻の代弁者としての機能を無意識のうちに果たしてくれる。つまり、妻が言いたくても、とても言えないようなことを、ためらいもなく夫にビシバシ言ってくれる。

 「お父さん、自分の昼ご飯くらい自分で作ったら。自立していない男って、一番、妻に嫌われるのよ。熟年離婚されちゃうよ」

 なんてことを平気で口にする。

 一般的に父親は娘に弱い。妻に言われれば瞬間湯沸かしのごとくカッとして聞く耳を持たないくせに、娘に言われるとなぜかシュンとしてしまう。

 そんな頼りになる娘がいなくなったら、これからなんとしよう。とても自信がない、やっていけなくなるわ、ということらしい。

 聞けば聞くほど、うらやましい。

 が、この母と娘の蜜月もね、実は永遠に続くものでもなく、相互依存関係の平衡が崩れるときが必ずくる。心ならずも依存的で娘の人生を乗っ取ってしまう「重い母」になる危険があるのだ。

 体力気力のあるうちに娘離れして「1人で生きる練習」をしといた方が賢明じゃない、と負け惜しみといわれる覚悟で進言したら、「分かってはいるけど、せめて35歳までは手放せない」と。

 女性の晩婚化の背後には、「娘の結婚を望まない母」の見えざる存在も大きいのかも。(ノンフィクション作家 久田恵)

(2007/11/09)