知人から「お正月嫌い」というタイトルのメールが届いた。
見ると、「毎年恒例の夫婦大げんかの果てに寝込みました」と書いてあったので、思わず笑ってしまった。
彼女は、定年後の夫と暮らす60代半ば。年末には、毎年、娘たちの家族がこぞってやってきて、お正月を過ごす。
それは、それでうれしい。夫も孫に会えるので大喜び。
けれど、家が民宿状態となる。娘たちは、お正月くらいのんびりしたい気分でいるのでなにもしない。つい母親役の彼女が、腰痛の持病を抱えながら台所に立ちっぱなしになる。
お婿さんたちにもいろいろと気を使う。ごちそうもする。もうへとへとになる。
ついでに夫にも気を使う。おかげで、お正月休みが終わると、その反動で、なぜか毎年、夫婦げんかになる。1カ月、口をきかない仲になったりする。
「娘の夫たちは、なぜ、お正月に妻の実家にばかり来るのでしょう。正直言って、たまには私も休みをもらって、なんにもしないでいいお正月を過ごしてみたいです」と言うのである。
そういえば、いつのまにか、今や、年末年始は「夫の実家」ではなく、「妻の実家」で過ごすのがニッポンのならわしになっているようだ。若い世代によると、それが、新しい常識です、とまで言う。
そう言われて、まわりを見回してみたら、確かにそう。
「お正月は、夫婦ふたりだけ」とか「誰も来ない静かなお正月です」とか言うのは、もっぱら結婚した息子を持つ人ばかりだ。
それはそれでさびしいような、でも、ラクチンのような。が、しかし、結婚してしばらくすると、妻は子連れで妻の実家へ、夫は夫の実家へ「ばらばら帰省」というのも多くなっていくらしい。ほんとうかしら、と思うけれど、その方が、どちらさまもお正月をのんびり過ごせてシアワセじゃありませんか、と言う。
どちらさまもと言っても、誰かがのんびり過ごすには、その傍らできっとのんびりできない人がいるわけで、やっぱりどこかで「お正月嫌い」の誰かを出現させてしまうのだろう。
思えば、私の母も「お正月嫌い」だった。子連れで家に帰ってのんびり、などとたくらんでいると、「私、お正月は旅行に行くの」と先に言われたりした。
今ごろになって、あのころの母の心境が、少し分かってきた。(ノンフィクション作家)
(2008/01/18)