産経新聞社

ゆうゆうLife

(54)命をつなぐ食 

 近頃(ごろ)、なんという世の中なの?とあぜんとすることが起こる。

 先日の謎の輸入「農薬入り餃子(ぎょうざ)」事件もそのひとつ。

 事件そのものにもびっくりだけれど、なにかが起こることで、そこから次々あぶりだされてくる実態には、もっとびっくりだ。

 たとえば、輸入の加工食品って、残留農薬の検査がされていないんだあ、とか。

 さらに、1カ月も前に餃子事件が報告されていたのに、東京都の職員が書類を1枚FAXし忘れちゃっていた!というのもねえ。行政間のやりとりって、FAXしておしまい、電話で確認するとか、その後のチェックをするとかしないのだ、と思い知らされた。

 食中毒があっても、保健所に連絡しない医者がいるのにも、ええっ! うそ!である。ああ、それよりもなによりも、生協だけは「安全と信頼」をモットーにしていると信じていたのに、なあんだ、食品の品質管理は、世間並みだったのね、とこれまた大ショック。

 まだまだある。

 農薬汚染が懸念されている中国河北省で加工された食品を学校給食で使っていたとは。昔は、学校給食といえば、地元野菜を使って、校内の調理場で手作りされるのが常識だったのに…。

 それやこれやで、日本の食糧自給率(カロリーベース)39%! 輸入冷凍食品の約7割が中国からですって!  

 いつの間にこの国はこんなふうになってしまっていたの?と呆然(ぼうぜん)とするしかない。

 今や、飽食、美食の時代。テレビをつければ、決まって誰かがなんかを食べている。食への欲望はとどまることを知らない。その一方で、大食いギャルとやらが大量に食べまくる姿がもてはやされ、食べ物が命をつなぐ大切なものだ、という価値観がどんどん崩されていく。

 その陰で、ここまで危機的な食糧問題に、私たちは直面していたわけで、これはもう、無関心のツケがまわってきたのね、と思うしかない。

 でも、今回の「農薬入り餃子」で、ちょっと目が覚めたかも。簡単、便利に走らず、外食は控えて、地元の食材での手造りに心がけ「命をつなぐ食」について思索せねばと。

 実は、この私も、突然、殊勝な気持ちになって改心し、地元野菜を購入。ロールキャベツやら大根の煮物などをせっせと作り始めた。食生活の見直しである。

 のど元過ぎて熱さを忘れ、三日坊主にならないといいけど。(ノンフィクション作家 久田恵)

(2008/02/08)