産経新聞社

ゆうゆうLife

(66)長生きしちゃったら

 「老人ホームから来てくれないか、と言われている」という知人がいる。

 75歳。後期高齢者。とっても元気。まだ、早いんじゃない?と言ったら、「入居」の誘いではなく、「入社」の誘いよ、と怒られた。そう、職員として働いてほしいと言われているとか。

 なんかいい話。介護ホームなどに年齢の高い職員がいるのは、雰囲気がおっとりとなっていい。

 思えば、数年前、仕事でアメリカに行って、驚いた。のどかな地方都市へ行くと、働いているのは高齢者ばかり。飛行場でも、高速道路の料金所でも、ホテルのフロントでも。銀髪の女性や男性が、のんびりすぎるほどのんびり働いている。

 「高齢社会」というと、介護とか、医療とか、若い世代に負担のかかる社会というイメージばかりがはびこっているけれど、実は、高齢者が仕事を分け合って、マイペースで働く社会でもある。

 そもそも、最近は悠々自適の老後なんて、無理無理、という感じ。「後期高齢者」の医療保険問題とか、「年金」をどうするこうするが、もっぱらの話題で、「年をとっても経済的に大変よ」と不安を募らされているのが現実だ。

 この私も老後のことなどつい考えて、お金の計算などしてみた。

 どのくらい持っていないとだめなのかなあ、と。

 年金が頼りにならない状況なので、60代も70代も働くとして、いや、それまで仕事があるのかないのか。最後は、介護ホームに入るとしても、一時金が安いところで500万くらいはするし、介護費用も、高齢になるほど、どんどん高くなるし…。おお、いくらお金があったら、足りるのか見当がつかない。

 で、結論は、長生きしちゃったら、どうしよう、であった。

 そう、どうも、目下の国の方向は、この「長生きしちゃったらどうしよう」へと、国民の不安を駆り立てているだけのよう。

 これは、いかにもまずい。

 せめて、80歳以降は、医療費も介護費もすべて国持ちにしますので、それまでは、自立自助で頑張って働いてください、というふうにでもしてほしい。

 こちらとしては、最悪(?)、この年齢までのことを考えとけばいいのね、というふうにしてもらうと、老後資金の目安もついて、頑張れるのに。そう、「高齢者」と呼ばれるのは80歳から。それまでは、別に現役並み扱いでいいわ。(ノンフィクション作家 久田恵)

(2008/05/02)